“戦い”という剣呑な言葉を聞いてある程度平静を保っていられるのは、それが比較的身近なものであったからだろうか。
剣道部員として……武術を嗜む身として、試合ではあれど“戦い”がどういったものかを理解している。
自慢ではないが、道大会では優勝を果たし全国への切符を手にした。相手にとって不足はない。
自前の竹刀もある事だし、相手が大人であっても問題は……無い、と思いたい。
ひとまず街中の様子は確認できた。
シスターさん曰く、例の“戦い”が始まるのは夜からな事が多いという。
であれば一度あの教会に戻って、夜になったらまた抜け出し───────
「────っ」
突如響く足音に思わず身が竦む。
驚きによる硬直、その一瞬を挟んだ後に背負っていた竹刀を取り出し構える。
足音は橋の向こうから聞こえた。じゃり、という小石を踏むような音が響く。
乱れ始める鼓動、呼吸を圧し殺し、震えだす手を抑え込むように柄を握り締めて視線を前へ。
……けれど足音が再び響くことはなく、街は再び静寂に包まれた。
気づかれた……?数分してから構えを解いて、音のした方を軽く確かめるも異常は見当たらない。
しかし足音は確実に鳴っていた。空気が一瞬にして張り詰めるのも感じられた。
場を支配するような雰囲気。試合では感じたことのないような、研ぎ澄まされた真剣のような気配。
それは私に、言い知れぬ恐怖を与えると同時に……一抹の“好奇心”を与えるものであった。
「…………やっぱり、確かめたい」
何が何でも、この大阪という街で行われている“戦い”を目にしたい。
その“戦い”の理由と目的を知ることが出来れば、私は「納得」してこの街を去れる。
「納得」さえ得られるのなら、お好み焼きや串カツが食べられなかった悲しみを帳消しにすることが出来るはずだから────。
……数十分かけ教会に戻ると、待ち構えていたシスターさんに叱られた。
誰にも見られないよう無音で抜け出したはずなのに……何処で気が付かれたのだろう。次からはもっと慎重に抜け出さなければ。