kagemiya@なりきり

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剣道少女の難波探索 1/2 2022/05/05 (木) 14:37:28

……夜が明け、朝焼けに照らされる街を眺める。

静まり返る街。人の気配が絶えた街。
無人の理由を知った今、昨日ほどの恐怖は感じられなくなったが……それでも不気味なものは不気味だ。
溢した溜息すらも反響しそうなほどの静寂の中で、私は“難波”と呼ばれる街にやって来た。

実のところ、私はこの大阪への遠征を楽しみにしていた。
生涯で北海道を出たことなど数えるほどしか無く、それも修学旅行で青森に訪れたくらいのもの。
東北以南の内地はまさに未開の地。大会が終わったら、空き時間に来ようとメモしていたお店があったのだが……。
当然のように人は居らず、店こそ開いてはいれど店員も客も居ない。

お好み焼き。串カツ。たこ焼き……は、タコが苦手だからタコ抜きで。
北海道とはまた異なる方向性のグルメを心待ちにしていた自分にとって、この悲劇はあまりにもショックであった。

「……紅生姜の串揚げ、食べてみたかったな」

道頓堀を代表する「戎橋」の欄干に腰を掛け、傍らの看板を傍目に愚痴をこぼす。
こんな事になっていなければ、私は今頃この街で友達と一緒に食い倒れていたはずなのに。
今じゃ友達、先生とも逸れて一人ぼっち。おまけに全身痣だらけ……いや、大会があっても痣だらけにはなるか。

ともあれ、今は命があっただけでもありがたいと思っておこう。
私を助けてくれたシスターさん曰く、理由のある地元民以外はほぼ全員が避難を完了しているという。
問い合わせてもらったところ、友達や先生も無事であった。同様にあちらにも私が保護下に置かれていると伝えられたという。
無事であることをお互い共有出来たなら一安心だ、パパにもママにも余計な心配をかけたくはない。
……まあ、その保護下からこっそり抜け出して今ここに居るんだけど。

一晩立って気持ちは落ち着き、状況の理解は出来た。けれど「納得」には至っていない。
シスターさんから大まかな説明はあったが、その殆どは……空想のような、私の理解力を上回るものであった。
何かが起こっていることは理解した。けどその「何か」がわからない。だから「納得」は出来ない。
何故私が巻き込まれたのか?この大阪で何が起こっているのか。シスターさんの言う“戦い”とは、何なのか。
今の私を突き動かす原動力は単純明快…………ただ「何が起こっているのかを、自らの目で確かめたい」。

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