巻き込まれ剣道少女の視点2/2
2022/05/05 (木) 02:03:04
そんな私の妄想は、「無音」という形で打ち切られた
足音一つ聞こえない中心街。ざわめきもなく、道路を過ぎる車すら存在しない無人の大都市が、目の前に広がっている。
「だ……誰か、居ませんか……誰か……!まだ、避難してない人が……」
絞り出した声はビルの合間を縫い、掻き消えていく。
街中で自分の声だけが響くという異様な経験もまた、正気を失わせる要因の一つとなった。
荒い呼吸が続く。足が震える。唐突に訪れた「非日常」に理解が追い付かず、冷や汗が止めどなく流れ出す。
もしまだ「誰かが残っている」という事を知らせられれば、この市内から出してくれるかもしれない。
その唯一の希望を以て、全力の声を振り絞る…………が。
突如響いたのは無機質なサイレン。
伴って、抑揚に欠け淡々とした人工音声がアナウンスを告げる。
『市民の皆様の避難が完了いたしました。
大阪市はこれより、特例隔離プロコトルCI-003に則り隔離処置が施されます。
“参加者”の皆様は、遭遇次第随時戦闘を開始して下さい。ご協力に感謝します。』
感情の無い声が、僅かに残されていた希望を奪い去る。
アナウンスに含まれた不可解な単語にすら気を配れないほどに、私の思考はぐちゃぐちゃに乱されて
何も考えられない。どうしたらいいかわからない。もし、不発弾が爆発してしまったら─────そんな事ばかりが脳内を巡り巡る。
崩れ落ちる、という感覚を味わったのは初めてだ。
膝から地面へと倒れ込み、立ち上がる力すら残されていない。
荒い呼吸を止めるための手段もない。次第に胸が締め付けられるような感覚が襲うが、助けを求める声すらも絞り出せず
…………薄れ行き、暗くなっていく視界の中で、僅かに静寂を打ち破る一つの“足音”が聞こえたような気がした。
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