大阪市中央区の片隅に立つビジネスホテルの一室。
室内に響く無機質なアラームの音が、私を睡眠から引き摺り出した。
良く眠れた……とは言い難い。慣れない環境や緊張、疲労のせいか、目覚めてなお拭いきれない眠気が頭に残る。
やはり飛行機は苦手だ。
剣道大会に出場すべく、二時間近い空の旅を経て身体の緊張がピークに達している。
離陸する時の押し付けられる感覚、浮遊感、不安。それらを総合して、私は飛行機という乗り物を苦手としていた。
その上、翌日に大会が控えているとなれば疲労が乗算して襲い来る。
結果としてこの不眠に繋がった。眠れたのはお風呂から上がった23時過ぎくらいの事だったか。
鳴り響くアラームを止めてあくびを一つ漏らす。
時刻は7時32分。アラーム開始から30分近くも眠りこけていたことに関しては、見なかったことにしておこう。
「……えっと、めがねめがね」
サイドテーブルに置いておいた赤縁のメガネをかけ、丁度ベッドと対称となる位置にあるテレビへ目を向ける。
目を覚ますには音と光、そらに伴う「情報」を取り入れるのが最善だ。
そして見慣れぬ地方局のアナウンサーが、淡々とニュースを述べ始め────て。
『……改めてお伝えいたします。昨晩、大阪市中央区城見にて原子爆弾と思われる不発弾が発見されました。
現在大阪市全域には避難勧告が発令されており、現時点で住民の避難は完了したとの報告が……』
青地のL字型画面に流れるテロップを見て、残っていた眠気も緊張も全てが吹き飛んでいく。
不発弾?避難勧告?頭が追いつかない。慌ててスマートフォンを手にしスリープを解除すると……
アラームの通知と共に、5分間隔で「市内からの避難勧告」が並んでいた。
血の気が引く。
アラームの音にかき消されて、肝心の通知音が聞こえなかった……?
避難勧告は7時30分を最後に途切れている。SNSからなにか情報を探れないかと試してみたものの、何故か繋がらない。
携帯の回線だけでなくホテルに備え付けのWi-fiすらも不通となっている。
「嘘……なんで、こんな」
先程までの緊張とは全く別種の不安、混乱に伴う動悸が込み上げる。
荒くなり始める呼吸を必死に抑え、改めてニュースの映像に目を向け直す。
『続報が入りました。7時30分をもって住民の避難は完了したとの事です。
以降は不発弾処理のため、完了まで市内へのアクセスは全て封鎖される見込みとのこと────』
────着替える余裕すらなく、備え付けのパジャマのまま部屋を飛び出した。
廊下は無人。ホテルの通路は基本人気が無いものだが、いつにも増して静まり返った雰囲気が更に不安を駆り立てる。
エレベーターを無視し非常階段を降りフロントへ。けれどロビーにも人影はなく、点きっぱなしのテレビだけが画面越しの「声」を伝える。
フロントにもバイキングにも人は居ない。全身に走る寄る辺のなさを押し殺すように、私はホテルを飛び出した。
もしかしたら、という淡い期待に縋る。何かの冗談かもしれないという儚い希望に縋る。
ホテルは偶然無人になっていただけで、街中に出れば活気のある雑踏が聞こえてくるはずだと。