「果たして憐れな参加者が手にするのは"自由"か?"死"か!?『殺戮遊戯』の開幕です!!」
死の遊戯の開幕を告げるブザーが鳴り響き、参加者達は血腥き迷宮内へと一斉に駆け出す。
此処はモザイク市『熱海』の地下殺戮遊戯場。表向きは子ども達が紛い物の恐怖体験を楽しむアトラクション。
...その裏の顔は生命を娯楽として消費する、狂乱の獄。
死の罠に満ちた迷宮を参加者、"商品"、招かれざる来訪者、廃棄寸前の魔力資源どもが突き進む。
屈強な男が奈落へ落ち、10秒間叫び続ける。
青年が頭から濃硫酸のプールに落下する。
女がジャガーが犇く部屋に押し込められ、喰い殺される。
少女が足元から飛び出した槍に串刺しにされ、魅惑的なオブジェと化す。
反響する絶叫、血声、呻吟...多種多様な死に様は監視カメラやドローンにより撮影され、裏社会に流通し死後も娯楽として貶められる運命にある。
また一人首が跳び、心臓が串刺しにされる中、必死に逃げ延びる参加者が一人。
「はぁっ...はぁっ...逃げなきゃ...逃げなきゃ...!!」
家畜英霊(スレイヴ・サーヴァント)に加工され"商品"として尊厳を売り飛ばされた少女、スクヴェイダーが己が身に残された僅かな量の魔力を回転させ、致死の罠を掻い潜って行く。
頭蓋に響く悲鳴、無残に果てた惨死体、脆弱な霊基であれば容易く斬り裂き貫いてしまう刃と棘の群れ...想像を絶する地獄に泣き叫びそうになるのを堪えながら、必死に、跳び、飛び、駆け抜ける。
いじられるのは嫌だ触られるのは嫌だ犯されるのは嫌だ殴られるのは嫌だ見せ物にされるのは嫌だ魔術で心と身体を玩具にされるのは嫌だ。
...弄ばれるだけ弄ばれて死ぬのは、嫌だ。
その意志が傷だらけで疲弊した、魔力が枯れ果てる寸前の仮初の肉体を突き動かし、前へ進ませる。
そして。
「え...ぁ...出口...?...!?出口!出口だ!!」
辿り着いたのは〔EXIT〕のランプで照らされた、隙間から光が漏れ出す扉。
自由へと続く、扉。
「あぁ...で、でられる!!やっとでられる!!」
幾たびも渇望した地獄からの出口に、縋り付き、扉を開く。
扉の奥で待ち構えていた銃口から放たれる高出力の魔力レーザーがスクヴェイダーの右太腿を、瞬時に綺麗に焼き切る。
「ぎぃ!?あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!脚が!!脚が!!」
脚を失い、地面に倒れ込み激痛に悶え苦しむスクヴェイダー。
傷口は焼き塞がり、焼けた肉の香りが周囲に漂う。
魔力もまともにない、加工され再生能力が弱った霊基では、四肢の復元は不可能である。
...元から救いなど、自由など、出口など存在しなかったのだ。ただありもしない希望に群がる者を地獄へと再び突き落とす為だけの、顧客の悪趣味な需要に応えたアトラクションの舞台設定。
悲痛な叫び声に反応し、新たなる死の罠が起動する。
魔術的な強化が付与された巨大な斧を持つ殺戮用オートマタが、無慈悲に迫り来る。
「お、おねがい、ころさ、ないで...!!いやだ...いや...たすけて...!」
殺戮用オートマタに参加者の懇願を聞き届ける機能など搭載されていない。泣き噦りながら後退りするスクヴェイダーの胸部に、巨大な斧を振り下ろす。
「がぁっ!!ぐぅっ...あ...かひゅ...」
服ごと胸の中心部が荒々しく引き裂かれ、鮮血が小さな幼い乳房を彩る。必死で何かを言おうとしているが、肺に血が入ったのか意味不明な水気のある苦しげな呼吸音にしか聞こえない。そしてオートマタは間髪入れず腹部にも斧を振り下ろす。
「ぁ.........」
エーテルで編まれた臓物を撒き散らしながら、びくんと大きく跳ね、力無く倒れ込んだきり、少女の身体は動きを停止した。
「残念!脱出者は全滅!!GAMEOVER〜!!」
惨状に似つかわしくない愉快そうな音声と共に、『殺戮遊戯』は閉幕した。
「商品名"矛盾"のライダーの回収完了。宝具に内包された『存在続行』スキルにより消滅の心配は有りませんが、記憶処置と霊基復元を行い修理次第、再出荷レーンに流します」