「魔力資源DE-8466を用いた家畜英霊(スレイヴ・サーヴァント)の召喚を実行」
無機質な機械音声が響き、「熱海」の深奥で悍ましき儀式が開始される。
「触媒:ノウサギとライチョウの継ぎ接ぎ標本、魔力資源DE-8466への薬物投与完了、歪曲詠唱起動、魔力供給途絶、《聖杯》からのバックアップ遮断、予想される現界直後の家畜英霊(スレイヴ・サーヴァント)の魔力保有量〔極低〕...強制陵辱召喚、開始」
触媒を使った召喚対象の偏向...違法召喚。
モザイク市成立以前の聖杯戦争で用いられた召喚詠唱を"歪め、短縮し"、本来"聖杯"単体で成立する英霊召喚を歪曲させる...違法召喚。
契約・魔力供給のパスを意図的に途絶する事による召喚対象の意図的な魔力不足の誘発...違法召喚。
《聖杯》からのサーヴァント召喚に関するバックアップを一時遮断する事によるサーヴァントに対するあらゆる恩恵の途絶...違法召喚。
違法に次ぐ違法により、紡がれた魔力の奔流が人型の実像を結ぶ。
顕れたのはウサギの耳を生やした、八つにも満たぬ程の茶髪の少女であった。
「やぁやぁ!このボクを呼ぶなんてモノ好きなマスターもいたもんだ.....ッ!!ちょ、ちょっとマスター...?ま、魔力なさすぎじゃない...?く、くるしい...魔力供給を...?マスター?」
薬物で脳機能を制限されたマスターに、少女の声は届かない。
...それはかつての聖杯戦争に於いてはあり得ない、"本来であれば人間に卸し得ない最上位の使い魔を、実像を結ばぬ召喚前に貶め陵辱し弱らせた状態で現世に出力させる"という最低最悪の召喚儀式。
「霊基情報の解析...完了。真名:スクヴェイダー、性機能:メス、霊基改変適性:極高、魔術抵抗力:極低...顧客評価を減少させる恐れがある悪性スキルを検出しました>>【鬱屈の暴声】。直ちにエーテル干渉機による擬似生体組織で構成された声帯の一部切除処理を開始します」
「は...?な、に言ってるの...?ねぇ、マスター!起きて!起きてよ!あ.....ひっ!?やだ...来ないで...来ないでっ!!」
英霊を尊厳を砕く為だけに作られた機械の腕、エーテル干渉機がスクヴェイダーに迫る。
極限まで魔力供給をカットされた彼女に、逃げる余地はない。跳躍するための脚は竦み、飛翔する為の翼は震えている。
そして
「やだっ!やめて!やめてよ!やめ... んぐ!?」
機械の腕がスクヴェイダーを捉えるや否や、グロテスクなロボット・マニュピレータが口内に無遠慮に侵入し、瞬く間に、正確に、残忍に声帯を切除する。暴声を発する部分のみを、美声を発する部分を傷付けることなく...
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛い゛だ゛い゛!゛い゛だ゛い゛!゛」
響き渡る掠れた、甲高い絶叫。喉から滴る血液、切り裂かれた声帯の残骸。英霊が持つ再生機能を封じられ、癒着した傷口。
痛みと恐怖で悶え泣き喚くスクヴェイダーを尻目に、無慈悲な機械音声が彼女の末路を告げる。
「家畜英霊(スレイヴ・サーヴァント)の加工が完了しました。出荷を開始します」
機械の腕で拘束されたまま、スクヴェイダーはベルトコンベアーに乗せられ、"出荷"されていく。
「やだ...やだよ...た、たのしい場所に召喚されるって...思ってたのに...!?んー!んー!」
口を塞がれ、ベルトコンベアーの先の暗がりへと消えて行く。消えて行く。
これが「熱海」の深淵、人間牧場の家畜英霊加工部門の日常。人類史を陵辱し、玩具とする、悪夢の工場である。