「……で、3姉妹のお姉ちゃん役は誰がやるの?」
ASプロダクション社屋廊下にて。不規則に響く三つの足音に紛れ、言葉を投げかけたのは銀髪ツインテールのアイドル……コスモス。
その内容は、この後撮影が行われる映画にて……彼女らが務める「三姉妹」役で、誰が長女を担うのかという質問である。
「ま、聞くまでもないか。お姉ちゃん役は当然このあたし────
「私だろう?年齢順で言えば当然のことだ、威厳的にも雰囲気的にも問題はない」
そんなコスモスの言葉を遮るように言い切ったのは、緑髪で最も小柄なアイドル・メンテー。
神代ギリシャを生きた神格としても、冥王星という天体としても「年長者」である彼女は、己の意見に微塵も疑問を抱いていないようである。
「はー!?あんたみたいなちびっ子にお姉ちゃんなんて無理でしょ!
それよりも、グラビアを経験して「オトナ」なイメージがあるあたしたちの方が相応しいと思うけど?」
間髪入れずに反論をぶつけるコスモス。
確かに先日、広告案件として文字通り「ひと肌」脱いだ彼女はピンナップ広告のメインを飾っている。
それが「オトナ」なイメージに繋がるのかどうかはさておき、コスモスも自分がお姉ちゃんだと譲らない。
「……見た目の話をするなら、私が一番相応しい。眼鏡に身長、要素としては申し分ない」
その様子を眺めていた物静かな白髪のアイドル、ダイソン・スフィアもまた口を挟む。
確かにユニットの中では最も長身であり、知的な雰囲気を漂わせる彼女にも年長者の風格は漂っている。
三者共に譲る気配を見せず、議論は撮影現場に到着する直前まで続いた。
「大事なのは背丈でなく中身だろう!」「世間のイメージが最優先!あたしたちが一番オトナだから!」「雰囲気を作るにはまず外見が大事では」
治まる気配も無く続く争いに、撮影前だというのに既に疲労感を募らせる一行。
何かちょうどいい着地点は……3人の脳裏に同じく浮かぶ思考。その思考に答えを見つけ出したのは、最も小柄なアイドルであった。
「よし、それならこうしよう────」
…………撮影現場にて。待ちかねた監督の前に現れた“三姉妹”は、皆一様に同じ衣装に身を包みこう告げた。
「監督。言い忘れていたが私達は……実は三つ子だったんだ」
「そ、そうそう。だから年の差とか関係なく同い年って設定でよろしく!」
「恐らく二卵性双生児」
唖然とする現場。ざわつくスタッフ。その中で監督はディレクターと何やら二言三言話した後、目の前の“三つ子”達に告げた。
「……いや、流石に無理があるでしょ」
渾身の三つ子作戦は一瞬にして失敗。
結果、キャスティングは現場側で決められ身長順に姉妹役が割り当てられることとなり
帰りのロケバスにて、メンテーとコスモスは終始膨れっ面を浮かべていたという。