永い眠りを妨げる衝撃がこの身を襲う。
役目を終えて眠りに就いてから何年が経過したのだろう。
軋み、朦朧とする意識の中で、無機質な痛みと「崩れていく」感覚だけが妙に鮮明だ。
錆びつく思考と視界を目覚めさせて周囲を見渡す。気が付けばこの身体の半分以上が失われていた。
砕けたものを補うようにめり込むのは、名前も知らない何処かの誰か。
既に意識を失い、何者でもなくなったそれは、私よりも数倍酷く砕け散り原型を亡くしている。
やがて……私もああなるのだろうかと。古ぼけた回路が数分後の未来を算出する。
華々しいものではなかったが、私の役目は人類の助けとなるものであったはずだ。
それを自覚してから役目を終えられるだけでも幸運だったと、“現実的判断能力”を失った回路が呟いた。
……最期に星を見たい。宇宙機として生み出された一基として、“宇宙”の名を関する衛星として。
この満天の星々の一つとして散っていくのだと、夢のような想いで――――――力を振り絞り、空を見上げた。筈なのに。
暗い。暗い。暗い。
縋るように伸ばした手も破片となって飛散する。
叫ぶ声も届かない。いつか見た、光に満ちた空は――――憧れだった“可能性”には、もう。
「――――塵しか、見えない。」
2009年2月10日16時55分、地球の低軌道上より二つの衛星が衝突。
人的要因もなく発生した同事故は、かねてより問題視されていた「宇宙災害」の可能性を証明する形となった。
ケスラーシンドローム。スペースデブリ同士の衝突による自己増殖。
その災害を「机上の空論」から「実際に起こりうるもの」とし、負の可能性を以て宇宙開発の道に陰りを与えたもの。
宇宙の名を冠し、可能性を信じてこの空に昇った“それ”に架せられたのは――――空を閉ざす“破壊者”という烙印であった。