リンボ喪失帯SS
2022/03/23 (水) 01:18:59
「よう新入り、さぁ熱い内に喰え喰え。今日は俺の奢りさ」
暗闇に潜む恐怖から逃れるようにキオスク跡地の酒場で今日も歓声が響く。
唾液が滲む。疲労困憊の終電で異世界に迷い込んでから何を食べただろうか。
芳ばしさが漂う紫肉の鶏ハツもカラッと揚がったカブもどきもご馳走だった。
怪奇映像を垂れ流すテレビ、喧噪に響くビールジョッキが鳴る音、巨大ミミズを捌く無貌の料理人。
それこそが死線を潜って得た一時の安寧。出口も分からず彷徨った先に見付けた小さな小さな希望。
「おっと箸が止まってるぞ。何故新入りに優しくしたか気になるか。そう顔に書いてある」
「一寸先も見通せない世界じゃ不安と憂鬱こそ命取りなのさ。腹が膨れれば安心できるからさ」
頬に伝う熱い雫も気にせず一心不乱に箸を動かす、そんな自分の背中を優しく叩く手が頼りに思えた。
通報 ...