「憑かれていますね」
ぴこぴこと私の頭頂で動く耳を優しく撫でながら、ピナさんはそう断言した。
「憑かれてる?」
「耐性が付いたとはいえ、ハバネさんの霊媒体質はまだ無くなっていません。
睡眠中は魂が無防備になりやすいですから、その時に入り込んだのでしょう」
「猫に食べられる夢を見たのはそういうことかぁ……」
あの恐怖体験を思い出してちょっと気分が下がる。肉眼では見えないが、今朝から私の頭の上に生えた黒い猫耳もぺたんとなったのが何となく分かった。
「特に害とかはない感じですか?」
「体に変化が起きているのは結構な大事ですよ。
ですが、そうですね。ハバネさんは魂が強いですから、それ以上影響が出ることはないでしょう。強いて言えば……」
そう言いながらピナさんが懐から何かを取り出し、床へと転がす。
───それを見た瞬間、私の脳がそれが何なのかを理解するよりも早く、私の体は動き出し。
てしーん!と、体ごと前に伸ばしながら両手でそれを叩き止めていた。
「うにゃっ!……はっ」
「このように、取り憑いた霊の本能が発露するかもしれない、ぐらいでしょうか」
「えぇーっ、今すぐ除霊できないですか!?」
「今のハバネさんも可愛らしいと思いますよ?」
「えっそう?いやーまいったなー猫耳まで似合うなんて私も罪な女だなー……じゃなくて!こんなところナナ姉に見られたら……!」
「ふふ。大丈夫ですよ、ハバネさん」
柔らかに微笑むピナさん。なんか嫌な予感がする。ピナさんがこういう風に笑う時は……!
「もう手遅れのようですから」
「───まさか!」
「……ふふふっ……………!」
振り向いた先、そこには教会の扉のところで笑いをこらえきれずその豊満な胸を振るわせて失笑しているナナ姉の姿が!
「ギャーッ、ナナ姉なんでここにーっ!?」
「…………っっっ」
無言でこちらにスマホの見せてくる。録画した映像。まさか。
『うにゃっ!……はっ』
「……う゛に゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!゛!゛!゛?゛?゛」
お昼の教会に、ひときわ大きい猫の唸り声が響いた。