今日の授業内容が保健だ、と聞いて、少し顔を赤らめるのは、きっと私だけでないはずだ。同い年の友人は殆どいないから、あまり自信はないけれど。
ともあれ、いつもの指導室では、センセイが黒板に、いつも通りのとぼけた顔で文章を書き込んでいた。タイトルは、「各種身体機能の成熟について」。
簡略化された半身ずつの人間の身体——当然片方は男性、片方は女性——が、ものすごくデフォルメされた下手くそな筆使いで描かれているのを見ると、センセイの不器用はいつまでも変わらないなぁと思う。
「不老不死を獲得しても、人間の持っとる基本的な代謝・成長の機能までは変わらん。つまり、寝る子はよう育つし、たくさん食べれば背丈も腹回りも大きくなりやすい。そんでもって食べたら食べただけ出るものも……」
「センセイ、その先は言わないでください。『最低です』ってヤツですよ。デリカシーないです」
「んぐむっ……ごめん」
書きながら喋るセンセイに、つい反射的に冷たい目線を向けてしまった。
けど、年頃の女の子に堂々と
この辺のトーヘンボクっぷりも変わらないけど、此処は出来れば変えて欲しい。
「……言い方が良くなかったかな。変に軽く言わんと、体重増えるとか、排泄物も出るとか……?」
……訂正、是非とも変えて欲しい。
普段はいいけど、こういう授業のタイミングで、繊細な心情を考えて欲しい時になると、センセイはオンボロロボット並みにポンコツになる。
ここさえ改善されればもっと授業を受けたがる生徒も増えるだろうし、なんならきちんとしたクラスを持つことだってできるだろうに。いまいち人気が伸び悩んでいるのは、この辺も理由としてあると思う。
閑話休題(……だったっけ?)。
それはともかく!と、センセイが咳払いを一つして、今度こそ授業が始まった。
「ともかく、人間は生物であり、従って成長する。此処まではええね?」
「大丈夫です」
「宜しい」
ほないしたら、と続けて、黒板の一角に四角い枠が増える。中黒を一つ打って先生が聞いてきたのは、「成長する場所」について。
「分かりやすいのは身長で、これはまぁ、赤ちゃんから次第次第に大きくなっていくってのが多くの人の当たり前な訳やけど。これ以外で、人間のどんなところが成長するか? ちょっとこの枠に書いてみ」
白いチョークを手渡され、起立を促される。
黒板の前まで来たのはいいものの、急に言われると、流石に少し思い出すのに時間がかかる。
体重……は乙女として言いたくないから、他のもので何か考えよう。
「えーと。まずは……免疫?」
子供より大人の方が病気にかかりにくくなる、そんな印象がある。
ということは、免疫機能、身体の丈夫さも、年齢に比例して上がっていくのでは? という連想から、まず一つ。
それから、筋肉や骨。センセイは身長が伸びるという形で表現したけど、節々に響く成長痛で眠れない夜を過ごしたことは、一度や二度じゃない。
背が伸びる以外にも、身体のパーツ全体が大きくなっていくのだから。
後は……脳の機能。大人になるまでに、脳の神経細胞は増えて、大人になったら後は減っていくだけ。そう聞いた。
なら、大人になるまでの間は成長していくと解釈できるはずだ。
というわけで、書き出したのは「免疫」「筋肉と骨」「脳」の三つ。これでどうだろう、と、席に戻ってセンセイの反応を待つ。