「風記箒はOLである。業績はまだない。なーんて……うちはうだつも上がらないOLですよーと」
などと呟きつつ、今日も興行の出来る場所を探し、裏路地を歩く。そんな折、ふと目に付いた存在がいた。あれは──ピエロ!?本物の。本物の、尊敬するピエロ。
遠いからか声も聞こえないか。そろりと、近付いて見れば。──ジャグリングは非常に鮮やか。楽しげにもしている。ああ、これは目指していた物そのもの、道化そのものだ。
──しかし、その感情は一瞬で無に変わる事になった。その人物が振り返った瞬間にあったのは、
「ァ……アナア、ミヘタ?」
──あったのは。……なんだ、これは。さけた、くち?それに全身が…わらえない。わらえない。これはわらっていいものではない。わらえるはずがない。いなくなるべきだ、わらわせなければ、『これ』はうちが■■■なければ──
「オーイ?……エヘト、コジンレンフウダケド、ミテク……ツモイ?」
……あれ。うちは何を考えてたんだっけ?緊張のせいかな、意識が飛んでたような。
こうして見ると、よく聞こえなかった声も優しさを感じる。意識が飛んでいたとして、興奮もきっと原因だろう、と即座に判断し。まずは落ち着いて、息を整える。
「色眼鏡って言うけど、色目……こう言うと上司みたいだな、うぇ」
ともあれ、自分の能力なのだから多少は覗いていいだろう。別に深くまで見通せるわけではないし。と自分に言い訳をし、深呼吸。
起動するのは、白い左目。……うん、まずこの目じゃ体は分からないけど…雑感としてその体も『うちと同じようなもの』、に見える。
さて、どのみち自分の目では心の方しか見えないのが恨めしいけれど。『見る』限り心から笑ってる。……うちが笑わせるまでもない、風格というか、プロ意識というか。
これはもうピエロとしての先輩、としてといいと思った。
「は、はい!ピエロとして尊敬……あっちがっ!えっと…いいんですか?」
そう言うと、どこか照れたような感情と心からの『楽しい』を見せてくれた。それはそれは青い顔と、赤みの差した頬も一緒に。
「……スコヒダヘ、ネ」
喜色満面の笑み、というやつがあればこうなるんだろうな、と思うくらいに口を引っ張って、彼女がにっこりと笑う。
それを見ると、うちもつい真似して。……何本か、物真似するには腕とかが足りなかったけど。
「は、はひ……!」
指を使って、口角を上げてから、これ以上は生きている内にはないんじゃないか、ってくらいに…盛大に笑った。