「食べぬのか?」
食卓に並ぶ既製品の弁当、惣菜。気持ち茶色に偏ったテーブルの上を眺めながら、キャスターは怪訝そうに問い掛けた。
目線の先にあるものは……私の手に握られた五目おにぎり。適当にコンビニで買った中に混じっていた、出来合いのおにぎりだ。
正直……五目おにぎりは嫌いではない。鶏五目なら好物と言える程度には好きなものだ……けど……
「……この五目、しいたけ入ってる」
これが五目の罠。私が密かに『シュレディンガーの五目』と名付けた、五目ご飯ならではのデストラップ。
五目を銘打ったおにぎりの中には、このように椎茸を炊き込んでいるものがあるのだ。というか、割合的には混ざっている方が多い。
イチかバチかで食べてみれば案の定広がる椎茸の風味。込み上げてくる吐き気を抑えながら、私は己の運の無さに打ちひしがれていた。
そんな中でキャスターは怪訝そうに、そして心配するように問いかける。そこまで深刻なことではないんだけど……。
「シイタケ……それは毒か?」「どっ――――うん、まあ……私にとっては毒みたいなもんかな」
思いも寄らない剣呑な言葉に思わずむせそうになった。食べられない、という意味では毒ではあるのだが。
「食べれば死する、という訳でも無さそうだが……そうか、毒であれば仕方あるまい」
それは意外な反応だった。私が椎茸嫌いを告白すれば、大体の人間は“美味しいのに”と知ったような顔で言い放ってきたのに。
「儂が生きた世には致死性の菌糸類は多々あった、時代は違えど毒性の茸の危険性は熟知しておる。
毒全てを拒む、というのも健全とはいい難いが……ふふ。見たところお前は既に、体を蝕む“毒”の味を知っておるようだからな」
…………それはまさか、希釈魔術髄液の……。召喚してからまだ一日にも経過していないのに、私が使っている薬のことまで見抜いている……?
キャスターは魔術師のクラスだと聞いてはいたが、まさか自分の体のことまで見抜かれているなんて。
その上で彼女は私のみを案じ、気を使ってくれたのだ。それはまるで……まるで、我が子を気遣う母親のように。
「……べ、別に食べれないわけじゃないよ。毒、だけど……味と、食感と、風味が嫌いなだけ」
「そうか。では……儂が喰らおう。英霊の身とはいえ栄養補給をすれば、多少なりとも魔力の糧になるだろう?」
そう言って私の手からひょいとおにぎりを掴むと、そのままぱくりと食べてしまった。
見覚えのある光景に思わず思考が止まる。この流れは昔……家で、食べ物を残した時のお母さんと同じ――――
――――脳裏に過る光景を振り払い、仕方なく私はかたわらの唐揚げ弁当に手を付ける。うん、これなら間違いはない。
「ふむ、成程…………この味わい。悪くはない。味は儂の時代に及ばんが……他の食材との味付け、風味付けが見事だな」
……椎茸さえなければ、私も同じ感想を言えたのに。冷めてしまった唐揚げを頬張りながら、俯き加減で夕餉を過ごした。