「わ、わたしの事はおかまいなく!」
男の伸ばして来た手を振り払う。
「そういうなよ。分かった、お前さんくらいのガキが好きな好き者もいるんだが、うちの店で働かねぇか?」
「お断りします!……絶唱」
この人は悪いおじさんだ、おまもりを握りおまじないを唱える。
くにを中心にドーム型に広がる黒い波動、魔力が男を弾き飛ばす。
仰向けに倒れた男を見てくにがため息をついた瞬間……
「チッ、やりやがる。魔術師、魔術使いか!めんどくせぇ!」
男は仰向けからブリッジの体勢に移るとそのまま背筋を使って跳ね上がるように立ち上がった。
男はボロボロになったスーツを脱ぎ捨てると金属質のボディが顕になる。
「ロボットおじさん!?」
「サイボーグだ、このガキャァ!……もったいねぇが、ボコって◯して力の差を分からせてシャブ漬けにして売り物にするしかねぇな」
男は怯えるくにに近づくと乱暴に衣服を掴み、破り捨てる。
凹凸のない未熟なくにの柔肌が晒され、男は舌舐めずりをした。
「下がりなさい、下衆」
瞬間、男は飛んで来た光弾に吹き飛ばされた。
「誰だ、てめぇ!」
「貴方のような下衆に名乗る名は持ち合わせていないわ」
凄む男と怯えるくにとの間に割り込むように人影が降り立つ。
それは少女だった。
臼桃色の着物を纏い、くにとさほど変わらない背丈だが、よりはっきりとした凹凸は大人らしさを感じさせる。
「てめぇ、フェイカー! チッ、そうか、てめぇの御手付きとはな…クソが!」
少女、フェイカーの顔を見ると男は苦虫を噛み潰したような表情で捨て台詞を吐き姿を消した。
「(違うけど)そうよ、分かったら二度と姿を現さないことね!」
男の後ろ姿を一瞥すると、フェイカーはくにへと近づく。
「ひっ!」
「大丈夫? 怖かったでしょう? もう大丈夫よ」
フェイカーは持っていた上着をくにへとかけるとくにを優しく抱き締めてる。
「あ……ありがとうございます」
「泣かないなんて、貴女強いわね。 私はフェイカーのサーヴァント。 何を偽っているかは、内緒って事で」
「サーヴァント?」
「そう、サーヴァントも知らないのね。 ここは危ないから私のアジトへ行きましょう」
フェイカーの甘い囁きにくには熱に浮かされたように同意してしまった。
優しくくにの手を握るとフェイカーは優しく微笑む。
「うふふふふふふふ、かわいいかわいい、かわいい、かわいい…」
くにの熱に浮かされたような表情を見ながらフェイカーは口元を歪める。
その光景をビルの屋上から一匹の黒猫が睨むように見詰めていたのをフェイカーもくにも気付かなかった。