「ドロシンジュクですか……」
竜狩りの拠点である新宿御苑への道すがら、竜狩りとスヴェトラーナはお互いの持つ情報を交換していた。
ここが泥濘の新宿と呼ばれる特異点、人類史に出来たシミであること。泥新宿ではサーヴァントが無差別に召喚され、無法地帯と化していること。
スヴェトラーナが言うにはスウェーデンの魔術師の学校、綺羅星の園にいた筈が気づけば泥新宿へと来ていたと言う。
「綺羅星の園にも日本人の御姉様はいらっしゃいますが、日本へ実際来るのは初めてですわ!」
何処と無く嬉しそうなスヴェトラーナに思わずそれは良かった。と相槌を打ちそうになった竜狩りはなんとか口を嗣ぐんだ。
身一つで知らない土地、しかも特異点に来てしまって良かったはないだろう。
「ジラント…スラブ、ロシアの竜種だったか、ロシアか……」
「もしや、ロシアの方がいらっしゃるのですか?」
ロシア、という単語を聞いて眉を寄せる。
それを見たスヴェトラーナは目を輝かせて竜狩りへと距離を詰めた。
「あー……一人いるが、彼女を果たして人言って良いものか……」
竜狩りの脳裏に浮かんだのはインターナショナルを背に胸を揺らしながら階段を降りてくる狂戦士。
『同志、竜狩り! その衣装に見合う紅き旗の元で革命の為に立ち上がる覚悟は出来たかしら!?』
頭を振り妄念を振りきる。
流石のレナもこんな事は言わない。多分言わない筈だ。
『しかしだな、竜狩りの抑止力。〝私〟はいつも言っているが、〝彼女〟と君の相性は良くないのになんとか繋ぎを作って〝私〟の戦力化を目論んでいる君にも大いに責任がある。いい加減諦めたまえよ』
レナ川の男はこう言うことを言う。妄念に拳を震わせる竜狩り。
「ところで一つお訊ねしたいのですが、私の前に来た迷い人とはどんな方ですの?」
竜狩りの奇行に首を傾げながらスヴェトラーナは問い掛けた。
「ああ、君より少し位小さな背丈で羊のような髪質の、キャスケット帽を被った子だ」
「キャスケット? もしかしてその方はちょっとこう…セクシーな感じでエメラルドのような美しい瞳ではありませんの?」
「あ、ああ…知り合いだったか」
スヴェトラーナの勢いに気圧される竜狩り。
「まさかぺトラ御姉様もこちらにきていたなんて! 貴女に保護されていたのは良かったですわ」
「最初に保護したのは私ではないが、今は預かっている。 まぁ竜ではないからな」
「竜でしたら殺していましたの!?私も殺すつもりですの!?」
素っ気ない竜狩りの言葉にスヴェトラーナは目を見開く。
「竜だからなんでも殺す訳じゃない。…最近はな」
「最近は!?少し前は無差別でしたの!?」
「………………」
露骨に目を反らす竜狩り。
「何故黙っていますの!?」
「ああ、付いたぞ。 ここが私の根城だ、彼女も中にいる」
「何故無視しますの!? きゃーっ!ころされるー!」
「殺さないから落ち着け……」