「なんやうちと似た匂いがするから来てみればまたけったいなことになってはるなぁ」
「ええ、全くね。退屈しなくていいけれど」
角の生えた鬼と西洋人らしい金髪の二人の少女達は新宿の片隅で長身の女性と対峙していた。
「どちら様ですの…?」
長身の女性、といってもまだ8歳のスヴェトラーナはその小豆色の髪を不安そうに弄りながら問う。
朝起きたら見知らぬ土地に放り出され、追う背中もない今スヴェトラーナは非常にナイーブになっていた。
だからこそ分かる。目の前の二人から感じる気配、感覚。間違いなく自分の同類だ。
「ああ、うち?まぁそやね、泥新宿のアヴェンジャー何人目やったけ?」
鬼の少女、鬼童丸は首を傾げ金髪の少女、モードに問い掛けた。
「寒波、赤コート、双龍に私達。四人目よ」
モードはいつもの事だとでも言わんばかりに答える。
「ああ、そや、4人目や。4人目のアヴェンジャーとか二人組のアヴェンジャーとか言われとる」
「スヴェトラーナは、スヴェトラーナは、貴女達とは無関係ですわ…」
深淵のような鬼童丸の目から目を反らす。
「いややわぁ、あんたうちと同じ混じり物やろ? 竜や」
「一つ訂正してもらいますわ。ドラゴンではなくジラント。そう、東欧至上の種族ジラント。幻想に生きるものの中でも最上位に生きるもの、全ての連鎖の頂点」
煽るような鬼童丸の言葉が気に触ったのか、スヴェトラーナは少々早口になりながらも言い返す。
「そういうの語るに落ちるって言うんじゃない?スヴェトラーナさん?」
くすくすと、ひどく愉快そうに子供を慈しむようにモードは微笑んだ。
「あ! ほ、放っておいてくださいまし!」
あわてふためくスヴェトラーナ。
恥ずかしかったのか顔が真っ赤にそまっていた。
「あんた、面白いなぁ。うちらと組まん?」
「貴女、また勝手に…」
「ええやないの」
鬼童丸とモードは和気藹々と会話を続ける。
「お断りしますわ、スヴェトラーナには帰らなければ行けない場所があります!」
スヴェトラーナは深く深呼吸をするとしっかりとした口調で言い放った。
「……残念やなぁ」
「ええ、本当に残念」
アヴェンジャー達の雰囲気が変わる。
しかし、少なくとも惜しいと思ってはくれているようだ。敵対するような気配はない。