「────幼稚で惨めで浅ましい!みっともない、みっともない、本当みっともなぁぁぁぁぁぁぁぁあああい!クソ女よ! ばぁぁぁか!このっ、ばぁぁぁぁぁぁああああか!!」
「……なんだ、今のは?」
一方的な強襲からトリストラムを押しきれず一進一退の攻防を繰り広げていたラモラックが聞いたのは、感情を剥き出しにした子供の悪口以下の何かだった。
「お前の、マスターか、アーチャー」
「……さぁ、知りませんね」
ラモラックの問いにそ知らぬ顔で矢を放つトリストラム。
攻撃の圧が強まった辺り、トリストラムのマスターの声で間違いないらしい。
時間差で飛来する矢を盾と槍で打ち払う。
(マスター、なにがあった、マスター?)
『マレフィキウム』は念話にも答えようとしない。
「この勝負、預けるぞ、アーチャー」
「逃がすとでも?」
マスターの異様な様子に背を向けたラモラックに追撃を掛けるトリストラム。
「預けると、言った」
左手で引き抜いたガラティーンを振るう。ガラティーンの異持、黒点である由縁。磁気操作で操られた周囲の鉄骨や金属片がトリストラムに絡まるように拘束し、檻のように折り重なる。
トリストラムであれば短期間であの檻から抜け出すだろう。
確信じみた思いを胸にマスターの元へと跳躍した。
「はぁ、はぁ…どうよ!目にもの見せてやったわ!」
マスターの元に駆け付けたラモラックが見たのは肩で息をして勝ち誇るアーチャーのマスター。
そして仮面を剥がされ、踞りうめき声を上げる『マレフィキウム』…いや楊小路水貴の姿だった。
「あっ……ぐっ! ア、アタシは、アタシは……!」
思わず愕然として立ち尽くす。
マスターは『マレフィキウム』は、……これは、ダメだ。少なくとも暫くは立ち直れまい。
見たところマスターに外傷はない。
『マレフィキウム』は強い。少なくとも弱い箇所を人に見せるような事はしないと知っている。
そのマスターに口だけでこれほどの精神ダメージを与えるとは……
例え口の上手さだけで巨人王を殺したと嘯き、実行して見せたサー・ケイですら、ここまで見事に相手の心は折れないだろう。
どうやら、アーチャーのマスターは傑物、女傑であるらしい。
「マスター、ここは、退こう。立てるか?」
「……ぁぁ」
ラモラックの声に『マレフィキウム』は力なく頷く。
「アーチャーの、マスター」
『マレフィキウム』を背負いながら楡へと話掛けるラモラック。
「なによ!」
気の強い女だ、と喉まで出かかった言葉を飲み込む。
ヒスを起こしたモルガンを思い出す、ああいうのは触るだけこっちが損だ。
「名を、聞かせてもらいたい」
「枢木楡よ、なんか文句あるの!?」
「いや、ない。 ……ただ、大した魔術師だと、感心するよ、レディ枢木。その口の悪さもな」
「へ?レ、レディ!?なにそれ!」
楡の困惑を余所にラモラックは跳躍し、夜の闇の中へと飛び去っていく。
「……泣くな、マスター。今は休め」
「……泣ぃて◯△□」
どうもマスターは相当重症なようだった