星見の砦に、始まりの石は立つ 2/2
2019/12/17 (火) 20:43:01
────微睡の中で、ザックライアスは目を覚ます。視界には変わらぬカルデアの天井が映る。
そうだ、あれは夢だ。堕天使に支配されなかった可能性。在り得たかもしれないIF。
だがそんな物はない。そんな幸せは有りはしないし、此処から先も起こり得ない。
聖地に自由を求めたあの日から、彼は全てを奪われ、そして凡てを奪い去った。
己の未来を、子の自由を、子孫の可能性を、堕天使の誘惑に負け、その総てを捧げた。
「────……っ」
頬を雫が伝う。どうして自分は、あの日、身に余る渇望を抱いたのだろうか。
そのような後悔だけが、何度も胸中で渦巻き、胸を打つ激痛となって襲う。
『大丈夫かい? 辛いようなら休むかい?』
「……いや、いい。行ける。大丈夫」
通信越しに響く声。それに生返事で返し、彼は立ち上がる。
「これは、俺が選んだ道だから」
失われた命は回帰せず、過ぎ去った時は巻き戻らない。あるのは唯後悔のみ。するべきは、ただ1つの贖罪のみ。
そのために此処にいる。そのために俺はいる。そう自分に言い聞かせ、奮い立たせ、彼は星見の砦に立つ。
進み続ける意志を止めることができるのは、始まりの意志だけなのだから。
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