サールースで行われた槍試合の後、ラモラックは騎士王アーサーに呼ばれ、会話を交わしていた。
「良く戻ってくれました、ラモラック」
玉座へと腰掛けた騎士王は気のせいか口調が軽い。
姿を消した古馴染みの騎士が戻ってきた事に僅かに気が緩んでいるのか。
「…許可も得ず姿を消した件は申し訳ありません。此度は王が嘆かれていると風の噂で耳にしましたので」
膝を着けたラモラックは僅かに顔を上げ、気まずそうに言葉を発する。
正しく顔向けが出来ない、といった所か。
「嘆く?何故私が騎士たちの奮闘を見て嘆くのですか?」
騎士王の珍しく困惑した表情にラモラックの眉がピクリと動いた。
──────嗚呼、哀れで忠誠厚く愚かなラモラック。
──────あの優しいアルトリアが騎士達の奮闘を見て嘆く訳がないのに。
──────察しが悪い貴方でも分かるだろう?貴方は嵌められた。
脳裏に響く愛しくも、二度と聞きたくなかった声にラモラックは全てを悟った。
「王よ、褒美は要りません。 代わりに暇をいただきたい」
ラモラックは顔を上げ、騎士王を直視する。
彼が騎士になった直後と変わらず若い姿のまま、見慣れた筈の姿がやけに眩しく思えて、少し目を細める。
「……そうですか」
「御恩に報いられず、申し訳ありません」
少々の合間の後、騎士王はただ頷く。
騎士王の何時もより更に感情の乗っていない声にラモラックは頭を下げる事しか出来なかった。
──────アルトリアは、もう貴方が帰って来ないと分かっているようですね。
騎士王は去り行く者を引き留めない。自分の元にいることはその者に取って不幸だと言わんばかりに。
「いきなり帰ってきて暇とはどう言うことだ?」
騎士王の玉座を後にしたラモラックの前に現れたのはベディヴィエールとルーカンだった。
ベディヴィエールはラモラックに詰め寄るとその顔を見上げ、睨みつける。
「……ベディヴィエール、ルーカン。後は、頼む」
ラモラックはベディヴィエールを押し退けるとルーカンに軽く頭を下げ、その場を立ち去る。
「分かった、任せたまえ」
「姉さん、どう言うことだ?」
ルーカンはそれに頷き、ベディヴィエールは不服そうにラモラックの背を見た。
「無頼漢を気取っている癖に、最後の最後で確執や血の因果に囚われるとはね。『彼女』が生きていれば、そんなものはブッ壊せば良いって言い切る女性に出会えれば違ったのかね…」
「姉さん?」
大きく溜め息を付くとルーカンはラモラックとは逆方向に足早に去っていく。
困惑が隠せないベディヴィエールはラモラックの背を今一度見ると、ルーカンの後を追った。
キャメロットの城門前で鎧を纏い、槍と盾を持ったままでラモラックは祈る。
「母上。親父殿に続き、早逝する馬鹿息子を御許し下さい。パーシヴァル、お前は騎士になどなるな。……騎士ラモラックこれより、死地に参ります」
祈りを終えたラモラックは城門を押し開け、外へと足を踏み出す。
──────本当に馬鹿な人。全てを捨て去ってしまえば長生き出来たのに。
「それは君との愛さえも否定することになる」
脳内に流れ込んでくる声に一言返したラモラックは振り返りもせずにキャメロットを後にした。