「母上、産後の肥立ちは如何ですか?」
巡察の最中、実家であるペリノア王の居城に立ち寄ったラモラックは久方ぶりに顔を会わせようと母を訪ねていた。
アーサー王と王の即位を認めない11人の王との戦も一段落となり、ブリテン内戦の終息は間近に迫っている。
それは、卑王ヴォーディガーンとの決戦を意味していた。
こんな時期に末の弟が産まれたと聞いたラモラックは最期になるかも知れないと母に会い来たのだ。
「まぁ、ラモラック! ……どうして男の人は、騎士と言う生き物は戦に夢中になると家の事をすっかり忘れてしまうのかしら。 ねぇ、パーシヴァル?」
ラモラックの顔を見るなり母は大袈裟に驚いて見せると、腕に抱いた赤子の頬を軽く突いた。
パーシヴァルは眠いのか、母の指を小さい手で軽く握る。
「……パー(槍)とデュア(硬い鋼)。良い騎士になりそうですね」
母の軽い揶揄に気まずそうにその長身を縮ませて、ラモラックは何とか言葉を絞り出した。
「パース(貫く)とヴァル(谷)よ。全く女の子にしては随分物騒過ぎるわ」
うつらうつらと首を揺らすパーシヴァルを揺りかごへと乗せると、母はため息を付く。
「妹? ふむ、確かに。妹でしたか」
揺りかごを覗き込む、名前で思い込んでいたが、言われてみれば女の子かもしれない。
「貴方のそう言うところは本当に良くないわ、戦と領地経営以外に興味を持ちなさい」
体全体でラモラックを押し退けパーシヴァルから遠ざける母。
ちょっかいを出されて起こされたくないらしい。
「機会があれば、何か趣味を探すとし ます」
お小言が多くなってきた。と言わんばかりに顔を反らすラモラック。
その足は出口へと向いていた。
「もう行くのラモラック? 落ち着きがないこと。 あの人に宜しくね」
もう少しいたらどう?などと騎士の奥方は言わない。
名残を残す前にさっさと行きなさいとでも言わんばかりに母はラモラックを追い出し手を振っていた。
母上はパーシヴァルを騎士にはしたくないようだが、母上に似ても中々の騎士になるのではないか?
もし、嫁を探すならもう少し気性の控えめな女子が良いな。
口には出さずに様々な事を考えながらラモラックは部屋の扉をゆっくりと閉めた。