葉っぱを使うことで手を汚さない工夫にもなっているとはなんとも合理的だとセイバーは感心する。
そして、始めての柏餅を葉っぱごと頬張り、カシワの苦味と餅と餡の甘味の入り交じるその独特な風味を味わったあと、サクヤに疑問を投げかけた。
「サクヤは食べないのですか」
「うん。セイバーが食べていいよ。あと葉っぱは食べないものだよ」
サクヤは餡が嫌いだった。
小豆を潰した食感がなんとなく嫌だったし、喉が渇くことがとにかく苦手だった。
その後飲むお茶が美味しく思えるのは良かったが、和菓子ならばだいたいそうだったので、やっぱり好きになる事はなかった。
「好き嫌いは駄目ですよ」
「好き嫌いという個性がなければ人類はこれほど豊かに食文化を発展させる事など出来なかったと思うのだがね。はいお茶」
「どうも。お茶と合って美味しいです」
本当に幸せそうな愛くるしい笑顔を見せるセイバーを見て、サクヤはやっぱり考え直して、ひとつ食べてみることにした。
思ってた通りの味だったが、なんだか今日は美味しく感じられた。
なぜだろうと疑問に思い、すぐに目の前の少女がその答えだと気づいて、サクヤはもう一口頬張った。
そういえば、柏餅で一つ思い出したことがあった。
「なんでセイバーは甘いものが好きなんだ?」
「む?」
リスのように両頬を柏餅で膨らましてこちらを向くセイバー。可愛いやつめ。
そして回答するためにもきゅもきゅと口内の柏餅を食していった。可愛いやつめ。
「はいお茶」
「どうも。……ふう。なぜ私が甘いものが好きなのか、ですか」
セイバーは少し考えた後、何かを懐かしむように、そうですね、と語った。
「当世における甘いもの、特にデザートはある種『幸福の象徴』のようなものといった印象でした。
それも高貴な人のみの嗜好品ではなく、街の人々、特に年頃の女性が好んで食べるものだと。
現界したばかりの私は、人の心を理解するにあたって、まず形から倣おうと考えたのです。そして」
「そして食べてみて、心を奪われたと」
「はい。それはもう一目惚れでした。あむ」
一通り話し尽くし、柏餅を美味しそうに食べるセイバー。可愛いやつめと思いながら、自分も新しく柏餅を1つ頬張った。
>柏餅から葉っぱ剥がすのってなんだかエッチですよね
水無月サクヤに天啓が舞い降りた。
「セイバー、君は人の気持ちを理解するために甘いものを食べてみたとさっき言ったね」
「いいましたが……」
サクヤがこういう輝く目をしている時はまた変なことを思いついた時だ。セイバーは目を細め警戒する。
「いっそ甘いものの気持ちを理解してみるというのはどうだろう!? そう君は、これから僕の手で柏餅になるのだ!!」
「は?」
「つまりだね。柏餅を覆う葉っぱのように君の体を何かで覆う!そして、それを僕が剥がして中身を食べるのだよ!そして君は柏餅の気持ちを完全に理解する!このロジックはパーフェクトでチャレンジはドリームだ!」
何を突然言いだしたのかわからないというセイバーをサクヤはそのどこからくるのかわからない熱意で無理やり押し切り、ふたりの城へと連れ込んだ。
しばらくすると、セイバーはまさしく葉っぱが体に張り付いただけというような奇抜な格好にさせられていた。
「セイバー!今君はだいぶ柏餅だよ!かなり柏餅だ!」
これは褒め言葉なのだろうか? 自分は一体何をしているのだろうかとセイバーは悩んだ。