ギドィルティ・コムはサーヴァントである。
彼女は普段はフラフラと気の向くまま歩き、
飽きたり腹が減ると自身のマスターであるイーサンのいる拠点へと戻ってはまた外へ出るといった日々を過ごしていた。
そして今日も何時ものように飽きて戻ってきた所であり、拠点の入り口の扉に手をかけた所で、嗅ぎなれない匂いがギドィルティの鼻をかすめる。
匂いに不快感はなく、むしろ食欲を刺激するような―――ああそうだ、この匂いは食べ物の匂いだ、とギドィルティが気付くと勢いよく扉を開く。
「オい、マスター。オレにもそれヲ食わセ…」
自分だけ食事しようなんてズルい、とさっきまで考えていたが、その考えが頭から飛んでしまった。
信じられぬものを見た。自身のマスターが料理をしているのである。
いや料理だけならまだないわけでもないが、食材を切って焼いただけのものばかりである。
そんな男が、エプロンを着けて鍋の中を混ぜている。
とても普段しかめっ面で銃を整備しているか、ハンバーガーをもそもそと食ってるような男の姿には見えなかった。
「おイ、食事を作ってるのか。マスターにシては珍シイな」
しかし物事を深く考えないギドィルティ、違和感は感じながらも普段とは違う食事ができるであろう様子に、すぐにイーサンに食事の催促をする。
だが、ここで再びギドィルティに衝撃が走る。
「ああ、ギドィルティ帰ってきたのですか、もう少しで出来上がりますから待っててください」
マスターが自分に優しい声色で喋りかけてきたのだ、それも敬語で笑みを浮かべながら。
あまりの衝撃に、この目の前の男は偽物なのではないかと判断し、即座に右腕を食い千切る。
「グゥッ…!?な、何をするんですか…!」
突然自分の腕を千切られたイーサンは激痛に顔を歪ませながらも、食い千切られた右腕はまるでビデオの巻き戻し映像のように即座に再生される。
明らかに異常な様子だが、これが正常であると知っているギドィルティはイーサンを本物だと信じざるを得なかった。
「…なァマスター、ソの喋り方ハ一体ナンなんダ?」
「何か変でしたか?」
「変ダ」
ギドィルティはイーサンの様子を変だと指摘するも、当の本人は何が変なのか認識していない様子である。
なぜ急にここまで様子が変わってしまったのか、普段は深く考えない性格のギドィルティも流石に少し考える。
「まぁひとまずそれは後にして、食事にしましょう。今日はカレーを作ってみましたよ」
「オおカレーか、前にオレが食いタいと言ったらダメだって言ッてたアれだナ」
物事を深く考えないギドィルティ、先ほどまでの考えを頭の片隅に寄せ、食欲を優先させることに決めたのであった。
「うんうん、なカなかうまかった。りょうガあと1000倍あればいイんだがな」
「そうですか、それは良かった。食後にデザートのアイスもありますが食べますか?」
「む、いいノカ?ハハハ今日はイい日だナ」
ギドィルティとイーサンの二人が食べ終え、イーサンは食べ終えた食器を片づけ始める。
そんなイーサンの様子を出されたアイスを食べながら、突然性格が変化した自分のマスターのことについて考える。
なぜ急に言動が変わったのか、何か頭でも打ったのか、それとも別の要因なのか。
じっとマスターへと視線を向けていたキドィルティに気付いたイーサンは「どうしましたか?」と微笑みながら言う。
「ナんでもナい」
普段よりも食事の量も美味い物も食べさせてくれて満足は何時もより高いが、何処か物足りないようなことをギドィルティは感じていた。