「バーサーカー、聞こえますか?」
『おぉマスターよ、連絡がつくとは僥倖だ。余が消えぬ以上どこかで生きてはいると思っていたが』
よほどヴィルマさんから供給される魔力が潤沢らしい。バーサーカーの声はまだ随分余裕そうだ。
「……現在はセイバー陣営と停戦を結び、行動を共にしています」
『その点は余も把握している。セイバーとアーチャーには一切攻撃はしていないぞ。で、要件はなんだ?』
「ヴィルマさん、僕が代わります」
「バーサーカー。僕はセイバーのマスター、カノン・フォルケンマイヤーです」
「時間がないので手短に、―――あなたのマスターの身柄を預かっている。状況を迅速に終息させるため、協働をお願いします」
『―――ほう?あの小僧か?』
男の声色が変わった。少なくとも、マスターを抑えられたことに対する警戒は皆無のようだ。
『無論拒否しよう。停戦までは了承するが、余とお前は本来この聖杯戦争で争い合う立場にある』
『敵と馴れ合い、無闇に手の内を晒すことは本意ではない。それどころか互いにランサーとの潰し合いを企むやも知れぬ』
『陳腐な脅しは辞めろよ小僧。お前なら用意しているのだろう?本命の交渉の札が』
返答は拒否―――だがやはりこの男は、こちらの思考を読むことに長けているらしい。
人質が通じるとは思えない。ヴィルマさんの救出を優先しなかったのは自分達が探すと踏んでいたからだろうし、
協力を拒否する理由は後からどうとでも取り返す算段を整えているからに他ならない。
そして奴は、この札も想定済みだろう。
「―――ランサーの撃破にあたって、セイバーの真名及び宝具を開帳します」
『……ふむ。ここで切札を出すか』
遠慮は無い、一刻も早くこの状況を終わらせねばならないのだから。背中を撃たれようが、秘密を知られようが知ったことか。
『まぁ、あくまでカノン君のサーヴァントですのでお好きにどうぞ、ひとまずこちらも支援に戻りますね』
「こちらも異論はないわ。バーサーカー、我が一撃をしかと眼に焼き付けておきなさい」
セイバーの戦意に満ちた瞳を確認する。これでようやく、全員の足並みが揃った。
「対象は数を武器に攻め立てて来ていますが、個々の判断は本体のランサーに依存し、戦局の処理能力は低いものと推測されます」
「作戦はバーサーカーで前線を構築し、アーチャーの誘導によってランサーを誘い込む。そこを、セイバーの宝具で仕留めます」
市街の中から目印となる地点を選び、前線予定地と狙撃地点にそれぞれバーサーカーとアーチャーを配備させる。
そして自分たちは決戦の地へ、セイバーの歩みに合わせて移動を始めた。―――背中に抱えている負傷者も一緒だ。
「一応、護衛はします。もう少しだけ付き合ってください、ヴィルマさん」
「……わかったわ。ただ、抱え方はもう少し考えなさい」
「―――作戦開始。敵サーヴァント、ランサーを撃破します」