地下壕の出口から顔を出すと、冷たい外気が肌を撫でると共に、街に似つかわしく無い焦げた臭気が鼻についた。
暗闇の中の伯林市街を照らすのは、人工のそれではない紅蓮の火の瞬きばかりだった。
英霊が、こんなことをやるのか。
SSの親玉みたいなマスターを引きずって現れたサーヴァント―――あいつはランサーと呼んでいたか、
それが英霊兵の軍勢を引き連れて無差別に襲いかかり、恐らくそれは今も止まっていない。まだ遠くから轟音が響いてくる。
「これからは?」
後ろから背負っているヴィルマさんが小声で話しかけてきた。
「セイバーの場所ならわかる。速やかに合流します」
左手に刻まれた令呪が熱を帯び、セイバーの存在を感じさせる。その方向の先に、彼女が戦う雷光が視認できた。
シズカさんもセイバーに同行しているか、通信の手段を彼女に残している筈だ。
暫し市街跡地を進むと、一人の人型と遭遇した。
セイバーではない。……あのずんぐりした形と首に巻き付いた黒い帯は、ランサーが連れてきた英霊兵の一体だ。
すぐに物陰に身を潜める。ただでさえ英霊兵に相手する装備は無いし、その上負傷者を抱えている状態で勝機は無い。
まずは英霊兵の様子を細かく観察しよう。動きの癖から隙を見ていけば安全に抜けれるか―――
そこで、思考が途切れた。
「―――――――――」
そいつの左腕が、血塗れの上半身を引きずっていた。
そいつの右腕に、血塗れの銃剣が握られていた。
小銃のボルトを引く。初弾を装填し、あの兵士の頭部に向けて引き金を
「待ちなさい」
銃を握る僕の手に重ねるように、ヴィルマの手がそれを抑えた。
「あれは、もう死んでいるわ」
英霊兵に気づかれないように、口元を僕の耳に寄せて紡がれた言葉が突き刺さる。
銃を押し留める彼女の手は冷たく、押せば跳ね除けられる程に握力は弱い。けれども、銃はぴくりとも動かない。
いや、動かせない。彼女の言葉が正しいんだと僕の身体は確信している。
あれはただの死体で、何をしたところで戻って来るものじゃない。そんなことは分かっている。
サーヴァントも無しにこちらの存在を気取られたら結果は見えている。敵との距離が近いまま令呪で呼び戻すのもリスクは高い。
分かっている。
分かっている。
だけど、
ランサーの英霊兵の感知は鈍く、警戒の仕方は単純なものだ。そのまま息を潜めて、僕達は英霊兵のいる場所を迂回していった。
右手に、彼女の掌の冷たさを感じたまま。