「あ……あの、男の人と付き合うのって…どういう事をすればいいんでしょう?」
ルナティクス精神領域、水月砦にて、そんな疑問を放つ少女がいた。
「そんなの挟んで絞って骨抜きでしょ?紗矢ちゃん良い胸持ってるんだから」
「ちんちん踏み踏みして罵倒すると男性は骨抜きですよ~♪?」
「オイ誰かこのミス悪影響共埋め立てろ」
兎男(トム)が呆れながら両石閻霧とちゃんどら様が水月砦からログアウトさせた。
「ふむ……俺は色恋沙汰には疎いからな…オイ月宮、お前はどう思う?
この中で唯一の社会人経験者だろ。なんか詳しいんじゃないのか?」
「恋愛ってのは要は男と女のマウントの取り合いだろ?」
「お前に聞いた俺が馬鹿だったよ」
霧六岡が呵々大笑しながら月宮玄をログアウトさせた。
「そもそもこの狂人共の坩堝で恋愛相談などするのが馬鹿だと思うがな俺は」
「だって……しょうがないじゃないですかぁ……。私恋愛なんて初めてで…。
そもそも自分を偽らず人と付き合うの事態久しぶりすぎてぇ……」
相談を持ち掛けた少女、慶田紗矢は頬を染めながら言った。
その後、紗矢は水月砦内を回ってみたが収穫はなかった。
石膏漬けにすれば良いだの、腱を千切ればいいだの、同化すればいいだのと話にならない。
途方に暮れていた所、一人の少女が彼女に対して勇気を出して声をかけた。
「あ……あの、私は……えっと、そのコーダさん? が好きになったのは、紗矢さん自身だと思う…から」
「変になんか取り繕わないで……自分のやりたい事、を、やればいいんじゃないかな……って」
要は、自分を信じろと、そうこの少女は言っているのだ。
それは奇しくも、紗矢の隣に立った少年のサーヴァントと同じ言葉だった。
「偉いぞ哉子。俺が言わずとも本質を突いたか」
背後から霧六岡が現れ、ニカリと笑いながら乱暴に少女の頭を撫でつつ言う。
「まぁ俺から言う事は正直なところ無い。先も言ったように、俺に色恋沙汰は皆無だからな」
「強いて言うなら、此れは他人の言葉だが、男女の付き合いは減点方式よりも加点方式の方が成功するぞ」
「ええっと……ありがとうございます」
ぶきっちょにも見える霧六岡のアドバイスに、紗矢は頭を下げて礼を言った
「まぁ何度でも来るがいい。迷う度に導いてくれよう」
そう笑いながら言う霧六岡に対して、紗矢はちょっと申し訳なさそうに言った。
「ああ…それなんですが、私……もうここ来れなくなっちゃうかも……です」
「ほう?」
「この場所…なんか以前に比べて、どんどん遠くになっているように感じて…だから……」
「なるほど。それは貴様の内の狂気が薄まった……、という事を意味するな!!」
ハッ!と声を上げて笑い、霧六岡は両手を叩いて喝采する。
「貴様は己が内側の渇望を解放せずとも良き領域(ぱらいぞ)に至ったのだ!
その在り方を言祝ごう……ああ、祝詞(はれるや)を声高く謡ってやろう!!
おめでとうナイトゴーント。いや、"慶田紗矢"!貴様は狂人ではなくなったのだ!」
しかし、と言い、霧六岡は拍手喝采を止めて続ける。
「また狂いたくなったら何時でも来い。我らルナティクス、去る者は追わず。来る者は引き摺り込む、故な」
「あはははは……それは、遠慮します」
慶田紗矢は不器用に笑いながら言った
「今の私には…此処よりも安心できる場所が、出来ましたから」