「───衰えたかなぁ。」
銃が重い……。手の内に握った鋼鉄をちらりと見遣る。
それが僅かな間隙となっていたことに、クリスタは気付かなかった。背後に駆け寄って来ていた足音が聞こえ、振り向いた時には、既に四ツもの自動小銃の銃口が此方に向いていて───
「(やば────)」
普段なら、こんな事無いのに。どうして?
長く人を殺してきた経験からクリスタは、気付けば自身が絶命の危機に晒されている状況そのものに驚愕した。
眼前の男たちが、引き金に指を掛けている。当らない事を祈らねば、先ず当る。この場の誰よりも彼女が理解していたからこそ、彼女は────僅かに身動いだ。
同時に、彼女の脳内に、雷の様な思考が飛び去っていった。
─────何で。
─────死ぬのが、怖いのか?
自身に向けられた銃口からマズル・フラッシュが焚かれる迄の刹那。クリスタが虚無に満ちた瞳を見開いた、その時───
すべての銃口の位置が、不意に下がっていった。
「……?」
否。目の前の男たちが銃を「取り落としたのだ」と、クリスタは瞬時に気が付いた。
有り得ない。『青の夜更』ほどでは無いにせよ、彼等も相当の手練れのはずだ。
死体が瞬時に三ツ生産されている場面を目の当たりにしたところで怯む様な胆力を備えている様では、
何故───疑問への答えを探す内、クリスタは気付いた。見辛かったが───彼女と兵士の間に小さく立ち塞がって、何やら呪文を唱えている、暗く儚げな女の姿に───
女の用いたのは簡略的な
だが眼前の敵は、違う。何も知らぬ兵卒だ。現に少し魔力に充てただけで、放心状態になっているのだから───
クリスタの背後に迫る存在に気付いた瞬間、女の身体は動いていた。……何故かは解らない。
だが、ヴィルマは現に成功していた。クリスタの背中を撃たんと謀ったこの不届き者達を、無力化することに……。
「やるじゃん。いい子にしててって言ったのに。」
クリスタは見開いた眼を、いつもの眠たそうな暗い瞳に戻して、相も変わらぬ暢気な調子でヴィルマに告げる。
「御免なさいね。……生憎、護られるだけの女じゃないの。」
ヴィルマもまた、いつもの不幸に満ちたような暗い瞳で以って、相も変わらぬ不満げな調子でクリスタに返す。
「へー、じゃもう僕いらないね。」
「解雇した覚えは無いのだけど。」
二人が僅かに言葉を交わす間に、残る影から足音が近づいてくるのを察知し、クリスタが身構える。
それに合わせる様に身構えて、ヴィルマは静かに、クリスタの隣に立った。
クリスタは困った様に隣の女を一瞥して、いつもと変わらない、気楽そうな声色で、ヴィルマに言った。
「……じゃ、三十一回目も生き残ろうか。出てきても良いけど、足手まといなら見捨てるよ?」
「あなたこそ。勝手に死ぬのは許さないわ。」
「ひゅー。言うようになったじゃん。」