錆び果てた鋼板を肉体で以て焼き菓子の様に砕き、獣のごとく姿勢を低くして、倉庫外の荒野へと踊り出す。片手には既に安全装置を外したナガン拳銃を持ち、飛び込みざまに銃口を向けた。
変わらず光の消えた瞳で、眼前に出現した三ツの人体を確認する。そのうち最も離れた一ツの頭部を無感動に眺めながら、肉体に染み付いた最小限の動作で銃を構え、照準を定める。
ただの一発。クリスタが迷わず引いた引き金の、僅かな金属の軋む音。弾倉が周り、撃針が走り、薬莢を叩く。消音器を通して、乾いた音が聞こえた。
同時にその人体は、力なく崩れ落ち始めた。其処に有った生命は、じきに消え失せるだろう。クリスタがそれを確信する頃には、既に余った左手にナイフを握っていた。
残った二人が異変に気付いたのとほぼ同時に、次にクリスタはもっとも近い位置の、大柄な人体を見る。
小柄な身を縮め、全身の筋肉を収縮させ、乾いた地面を蹴る。須臾の間に二つの僅かな砂埃が立つと、その身体は既に、人体の背後に存在していた。
勢い付いた肉体とは裏腹に、恐ろしいまでに優しく、軽く、音もなく、彼女は人体に後ろから抱きついた。一動作で終わった。彼女が左肩を僅かに動かし、腕を横に引く。それととともに、人体の首に深く押し当てられた刃が、肉を素早く、柔らかく引き裂いていた。
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状況をようやく理解した最後の一人が、同胞に組みかかっている女に自動小銃の銃口を向けた。
クリスタは瞬時にナイフを離して、先ほど切り裂いたばかりの、大柄な人体の背後に隠れる。続いて恐慌状態で発砲された銃弾は可哀にも同胞の肉体を貫き、その命脈が事切れるのを早めた。
それに気付いて引き金が止まった隙を許さず、クリスタは既に生命活動の停止した人体を、前方へと勢いよく突き飛ばした。
男は突如として自分の方に飛んできた肉塊の衝撃をもろに受け、体勢を崩す。そのまま息せぬ重い人体と共に、地面に倒れ込んだ。
男が見上げる瞳に映ったのは、自身に向けられた銃口と、それを構える女の、燻んだ金の髪、小さく端正な顔、草臥れた様な無表情。そしてその内に無機質に嵌められた、何一つとして光を映し出さない、紅の虚無の瞳だった。
深淵の様なその瞳を覗き込んだその刹那、彼は理解した。この光景は、自身が最期に見るものなのだと───
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乾いた銃声。生命が消える音を感じながら、クリスタは息を吹く。
それ迄何とも思わなかった筈の銃声は、その時、何故か───酷く悲痛なものに感じた。