冬木教会。
たどり着いたそこには、明らかに異常を見せている聖杯のようななにかと、1人のサーヴァント。
「やあ、よく来たね。あたしはルーラーのサーヴァント、 &ruby(ウンニャオ){熊女}。
こいつを食い止める為、ずっとここにいた。誰かを待ってた。本当に助かった。」
そのサーヴァントは、意外なほど友好的だった。こいつが黒幕だと思っていたのに。
「あたしを倒せば解決。そう思っていたなら残念だね。私はむしろ、この理不尽で救いようなない世界を止めようとしていたんだ。」
それはルーラーというクラスで彼女が召喚されている限り、当然のことだった。おそらく彼女は聖杯の最後の正気によって呼ばれたのだろう。
「で、聖杯戦争の監督役というより、日に日に汚染される聖杯の監督をしていたんだけど。
なにか、直近で変化はあった?」
「もう1人召喚されていたサーヴァントが、自害しました。きっと、自らの人形を壊させるために。」
「そうか。この聖杯は、はっきり言って邪悪だね。でもそれが加速している願望器としては問題ないけど、叶えられる望みがねじ曲がってる。
大切な人の消滅を示唆して、それを理由に争わせる。ここに捧げられた願いは一つ。世界の崩壊。」
あまりに大きなワード。思わずカゲミヤは問う。
「待ってくれ!僕の追いかけていたあの人も、世界を壊すための人質だったのか?」
呼び出されたのはアトランダムだと思っていた。
「あんたの大事な人がどうかは知らないけど、おそらくそこの嬢ちゃんは、何か国を背負っているね。真名看破じゃない。服装の話さ。
この聖杯は目的を持ってこの世界を作ってるよ。あんたの大事な人も、世界にとって大事な人なんじゃないのかい?」
そう、シャドウチェイサーが追い求めた人物は。ある意味呼び出された者の大事な人の中では特異だった。『抑止の守護者』。間違いなく、特異な存在だった。
「そうか…彼は僕が問わなくても、もしかしたら答えを得ているのかもしれないな。」
カゲミヤは呟く。彼には価値があったと、形はどうあれ明かされてしまったから。
それでも。この問題は終わっていない。
「この聖杯を壊せばいいのか?なんだか不気味な化け物としか言いようがないが。」
「ユダが還ったことで、さらにこいつはおかしくなった。元々作為的にサーヴァントを召喚してる聖杯だ。意思を持つ化け物。その通りだ。」
熊女は続ける。「あたしは裁定者として呼ばれ、この聖杯が暴走しようとするたびに宝具で焼いてやった。しかし死なない。
きっと、再生に必要な心臓部のようなものがあるのだが。」
そこでカゲミヤが口を開く。
「生きているのか、こいつは。それなら。生きているものなら。
僕の原初の宝具。それで心臓部を貫く。
たとえ、神様だって。生きているなら、殺してみせるーーーーー」
弓を構える。覚悟を決める。
「詠唱は、要らない。『&ruby(レイズ){致命の一矢}』。」
カゲミヤ本来の宝具。当たれば相手が死に、当たらなければ自分が死ぬ。シンプルにしてリスキー、覚悟を示す宝具。
ただ、動きをルーラーによって止められ、蠢くしかない聖杯の化け物には。効果は絶大だった。
声は上げない、しかし血液のようなものを噴出し、暴れ回る聖杯は。三人のサーヴァントにとっては、全力を振るうに相応しい相手だった。
「さあ!こうなったらあたしたちの本領発揮だね。あたしの旦那は情熱的でね。火傷じゃすまないかもね!『&ruby(シンダンス・ファヌン){神壇樹・桓雄}!』」
熊女の眩い閃光が、聖杯の肉の塊のような防御壁を吹き飛ばす。
その中から、無尽蔵の肉塊の化け物が現れ出でた。
「大群相手ときましたか。いいでしょう。『&ruby(サウンド・クォーターズ・コンバット){S.Q.C}』。全て、私が引き受けます。」
ワシントンの大群宝具が続けて展開される。
大量にいた肉塊の化け物は、次々とワシントンに倒されていく。
「残るは、僕の仕事か。」
カゲミヤの前に立ち塞がるのは、無防備ながら、あまりに巨大な肉塊。聖杯の本体。
だが彼は落ち着いていた。彼が形はどうあれ、世界にとって重要なものとして認識されていたからこそ、この戦いに彼は呼ばれたのだと。それは、きっと。彼の人生は幸福だったかもしれないと、一抹でも思えたから。
何かが閃いた。そしてその絶大な威力と、使えば自身が消滅することも知った。それでも迷わず、新しき宝具を切る。正義の味方を追いかけた彼は、もしかすると、それもひとつの正義の味方だったかもしれない。
「ーーーーーこれは、何かを垣間見た先。
''&ruby(エクスカリバー・イマージュ×チェイス・メモリア){『永久に忘れること勿れ、追憶に輝く運命の剣』}''。」
輝ける聖剣の一撃。僕の見たそれは確かに現実のものとなっていて。
聖杯は破壊され、間も無く世界は消滅した。
混沌たる世界。イレギュラーでアンフェアな案件は増える一方で。彼らは自らを呼び出した聖杯を自ら破壊するしかない。理不尽な争い。
それでも、そこに一つ。「彼の人生は、少なくとも偉業と認められていた」答えの断片を、見つけられるものもいる。