「フハハハハハ!!そんなものかね、スコルツェニー!ヨーロッパで最も危険な男と言うには名前負けしているぞ!」
スピーカーを通したハウスホーファーの勝利を確信した笑いが周囲に響く。
確かに勝利をハウスホーファーに確信させるほど未完成ながらも投入されたハウニヴの戦力は圧倒的だった。
飛行不可能であるが故にLandkreuzer P1000(陸上巡洋艦 P1000)陸上戦艦ラーテの試作車両に乗せられたハウニヴはスコルツェニーやユスポフの手持ち火器ではびくともしない。
「あんなのがあるだなんて聞いていないのだけど」
「俺もだよ、ユスポフ」
工事の廃墟に身を隠した二人は声を潜め、無限軌道の金属音を立てる移動要塞の様子を見た。
「手持ちのバズーカは勿論パンツァーシュレックもファウストも尽きた」
残ったStG44の残弾を数えながら思考する。
アレ相手には正面からでは88(88ミリ高射砲)のゼロ距離射撃でさえ厳しいだろう、砲であれば巡洋艦級の威力が必要だ。
だが、上方や下方からなら……
「良しスコルツェニー。僕は逃げるから囮になりなさい」
「ふざけんな、爺さん。ここまで来たんだ最後まで付き合えよ」
ハァー、とユスポフが溜め息をつく。
「デリカシーがない上に気が利かない。 モテないよ、君」
「うるせぇ、そりゃアンタはどっちにもモテるだろうけどな」
「分かるかい?」
満更でもねぇ顔してるんじゃねぇよ、と言う言葉を飲み込むと時計を見た。既に“予定”の時間はかなり過ぎている。
「……こりゃ冗談抜きで逃げるのも考えないとマズいか」
スコルツェニーは犬歯を舐め、喉を潤す。
「年長者として言わせて貰えば犬死に、無駄死には敵を喜ばせるだけだからね。 生きてさえいればどうとでもなるものよ」
何処か達観した様子でユスポフは言った。
「あんたが言うと説得力がすげぇな」
煙幕はある。煙幕で撒いて夜の闇に紛れればどうにか逃げられるだろう。
と、そこでスコルツェニーの耳に聞き覚えのある音が聞こえた。
「……いや、大丈夫だ。漸く来やがった」
「良いタイミングだなぁ、援護するから注意を反らしてきなさい」
ユスポフはデグチャレフPTRD1941対戦車ライフルを構え、左手で前へ出るよう指し示す。
何度か深呼吸をしたスコルツェニーは意を決したようにStG44を腰だめに飛び出した。
「ハウスホーファー!」「自棄になったか!」
対戦車ライフルの援護を受けてStG44を乱射するがハウニヴには通じない。
ハウニヴから発射された光線がスコルツェニーの真横を通り、着弾すると同時に爆発。
爆発に巻き込まれ、吹き飛ばされるスコルツェニー。
「ここまでだ、オットー・スコルツェニー」
光線の銃口が倒れ伏したスコルツェニーに向けられる。
ハウスホーファーの言葉に横向きから仰向けになったスコルツェニーはゆっくりと右腕を空に向け指を指した。
「…………サイレンが鳴るぞ、連合軍が尽く恐れた死を告げる悪魔のサイレンが」
「サイレン…? まさか、上空だ!」
スコルツェニーの口元が歪む。
それを見たハウスホーファーは上空を見た。確かにサイレンは鳴り始めていた。
ドイツ空軍の爆撃機Ju87 シュトゥーカが急降下時に聞こえる風切音を連合軍はこう呼んだ悪魔のサイレン、と。
そこにいたのはJu87G、旧式化したJu 87を30mm機関砲を2門搭載した対戦車仕様。
Ju87Gはハウニヴへ30mm機関砲を連射すると搭載した1000㎏爆弾を解き放った。
「止めろォ!」
『待たせたね!フェリ君、中佐さん!』
「……遅ぇよ」
スコルツェニーにはコックピットで笑みを浮かべるフルスタの顔が見えたような気がした。