kagemiya@なりきり

MELTY BLOOD企画SSスレ / 6

34 コメント
views
0 フォロー
6

───そう言って、ナナは無造作に投げてあったホースをむんずと掴んだ。
このグラウンドは少年野球チームが練習場に使っているから彼らが使用しているものだろう。
蛇口をひねり、Yシャツ姿のまま勢いよく吹き出た水を頭から被る。すぐそばの街灯の明かりがその様子を映し出していた。
どす黒い血で赤く染まっていた髪が、月の光を漉いたような銀色へと元通りになっていく。
まるで野生動物の水浴びのような、繕うことのない荒々しい美しさがそこにはあった。
支はベンチに腰掛けさせられたまま、腕の傷口に包帯を巻いているフラムに話しかけた。
「僕よりも、彼女の治療を優先したほうがいいんじゃないか」
「大丈夫です。たぶん全部返り血ですから。あの人物凄く頑丈で、例えるならサイボーグなんです」
「おーい聞こえてるよシスター・フラム~」
「ええ、聞こえるように言いました」
服を着たままじゃぶじゃぶと水を浴びるナナへきっぱりと告げ、フラムはぱちんと包帯をカットした。
「あまり大きな傷口ではありませんが咎めないとも限りません。
 間接的とはいえ不浄なる屍から受けた傷ですし。どうか用心なさってください」
「ありがとう。恩に着るよ」
いえ、と淡白に返事したフラムは先日見かけたものよりコンパクトなトランクケースに応急キットを仕舞っていく。
と、そこで公園の夜闇にキュッと金属の擦れる音が響いた。蛇口が閉められた音だった。
「フラムちゃん、タオルちょーだい」
「はいはい」
トランクケースから取り出されたタオルを受け取ってナナが髪を拭う。
まだ湿っていたがタオルでは乾ききらないと判断したのか、途中で切り上げて支の方を向いた。
「ま、これで分かったでしょ?下手に首を突っ込むとサクッと死んじゃうぞ~?」
「でも、僕は───」
「でももへったくれもあるもんかい。だいたい今だってアタシたちが来なきゃ死んでたじゃないの。
 これは『常識外(アタシたち)』のお話。キミは『常識(あっち)』の人。住む世界が違うんだよ。
 あのお姫様の居場所を教えろとまでは言わないからさ。悪いこと言わないからやめとき?」
ナナの口調はあくまで脳天気な調子だったが、表情は真面目にこちらを案ずる真剣なものだった。
………そう。
ミナも側におらず、たまたま彼らが“運良く”通り過ぎなければ支は死んでいただろう。
彼らは悪い人たちではない。
彼らは秩序の調停者だ。魔を滅すると同時に市井の人々を闇へと立ち入らせないものでもある。
支の理屈を納得してもらうのは難しいだろう。
唇を引き結んだ支の横で、「ところで」と唐突にフラムが声を上げた。
「いつ切り出すか迷っていたのですが。───服、思い切り透けていますよ」
へっ、と間抜けに呟いたナナが身体を見下ろす。つられて支も視線が下にいった。
血がだいぶ流されてところどころ薄ピンク色に染まっているYシャツは、水を吸ってぴったりとナナの肌に張り付いていた。
彼女の均整のとれた肢体がこれでもかと強調されている。綺麗にくびれた腰、大きすぎない程度に大きい程よい乳房。
街灯の頼りない照明でさえ、みずみずしい褐色の肌が透けて見えるようだった。
ネクタイを外して胸元を開いていたので胸の谷間さえ顕になっている。生地に浮き出ている細かい凹凸は下着のものか。
Yシャツの色合いが変わっていないから、色はおそらく“白”───!
「───ぎゃあああああ!フラム!上着、上着!支クン、みっ、見ないでぇ!」
瞬間沸騰したナナが胸元やお腹を腕で隠し、人間に気づいた動物みたいな俊敏さで街灯の明かり届かぬ暗闇へと逃げた。

通報 ...