「それは、キミが僕しか知らないから、キミの世界に僕しかいないからそう思うだけだ。視野を広げれば僕に執着する必要なんか━━━━」
「いいえ。貴方以外の男なんて、興味もないの。貴方より優秀でも、貴方より強くても、貴方じゃないのなら、それは要らない。必要無いわ」
彼女は隠し事ができるようなタチではない。喋らないことで己を読み取らせないことはあっても、偽りを口にするなんて、とてもじゃないができやしない。
ゆえに今の言葉は紛れもない本音で、彼女の中にある確かな欲求なのだ。
「なんで、僕なんだ」
「貴方が、ここに居続けたから。
貴方が、私の中に入り込んできたから」
つまりそう、僕の何かに惚れ込んだのではなく、ただ僕がそこにいたから、それが当たり前になったから、美影さんは、久遠美影はそれを失うことを良しとしないのだ。
長く観察を続けてきたんだ、美影さんの行動理念が常にその一点を重要視していることくらいわかっている。
ただ変化を厭い、劣化を嫌い、堕落を拒絶し、進化をしない。それこそが久遠美影が求める唯一の願い。
だったら。ああ、だったら。僕の答えは決まっている。
「大丈夫。僕は美影さんから離れたりはしないよ。キミを変えた責任は取る。言っただろう、僕はみんなを正しい道へ導くのが目標なんだ。美影さん1人を救えなくて、全人類が救えるものか。だから、僕に救われる1人目になってくれ」
頬に置かれていた手を外し、身体の前で両の手で両の手を包み込む。
やるべきこと、言うべきこと、進むべき道は固まった。
僕が選んだ道だ、これが間違った選択肢であるものかよ。
ゆえにすでに迷いは無い。
「嘘じゃないかしら」
「とてもじゃないけど、キミには吐けないよ」
「他の女に、目移りしないかしら」
「そうなればこの眼を潰してくれてもいい」
「私の手を引いてくれるかしら」
「一緒にいる時は、ずっと」
「愛を、絶やさないでくれるかしら」
「誓うよ。僕の愛は最期まで、美影さんに注ぎ続けよう」
「貴方は、変わらずにいてくれるかしら」
「それは━━━━━」
言葉を詰まらせる。澱んだ水晶体が、僕の顔を写している。
断罪者と相対しているようなプレッシャー。心臓を見えない手で掴まれたような不快感。触れている手はとても冷ややかで、全身で僕の言葉を待っていた。
でも、ここだけは譲れない。
「それは、約束できない。変化を拒むということは、停滞と同義だ。あってはならないことで、もし諦めて、投げ出してしまったら、僕は僕じゃなくなる。美影さんの求めた、愛輪支はいなくなるんだよ。だから止まる気はない。死ぬまで進み続ける。そうじゃなければ、僕は、僕を愛した人に報いれない。
そして、美影さんも留まらせて置く気は無い。一緒にはいよう。隣にはいよう。だけどそれは、同じことを繰り返して死んでいくという意味じゃない。共に歩くという意味なんだから」