kagemiya@なりきり

MELTY BLOOD企画SSスレ / 32

34 コメント
views
0 フォロー
32
美影ルート・支と美影・初夜(1) 2024/02/20 (火) 22:17:09

「襲ってくれても構わないのだけれど」
「は?」

突如として発せられた衝撃的な言葉の理解に、やや時間を消費する。
最近は屋敷の人も妙に態度が柔らかくなり、やたらと僕への挨拶や気配りを利かせてくれている。今日も美影さんとの夜の散歩の後、ぜひ泊まってくれと言われたので、それに甘えて一晩過ごさせてもらっている。どうせ家に誰がいるというわけでもないのだし。
だが想定外だったのは、なぜか座敷牢に僕の分の布団が敷かれ美影さんもそれを受け入れていたことだった。
たしかに一般的な精神病者の自宅隔離に使われていた部屋に比べて、久遠家のそれはやたら広く、人2人が使う程度分にはなんら問題がない面積を有していたが、だとしてもあんまりだろう。
それは信頼の現れなのか、もしくは何かを期待されているのかわからないが。
とにかく、そういう何かを意識せずにはいられない状況に、僕は置かれていた。そしてこの美影さんの言葉である。
正直9割くらい意味は分かっていたが、残りの1割で地雷を踏みかねない可能性を考えて、一応確認をしておく。

「……誰が?誰を?」
「女の子がここまで言ってあげているのに察せないなんて、愚鈍なのかしら。それとも、へたれ?」

勘違いじゃあなかった。本当に"そういう"意味で言っているらしい。
いくらなんでも心の準備ができていない。
普段はこんな風に露骨な誘導をされたら、それに引っかかってあげているけれど、今回はそうもいかない。

「僕がへたれかどうかはともかく、女の子だと言うのなら、そんなことを口走るべきじゃないよ」

口をついて出たのはそんな模範解答。どうやら僕は追い詰められると、テンプレートに沿って言葉が出るようになっているらしい。
美影さんはさらに不機嫌そうな顔になると、こちらに向き直り、僕の顔を押さえつけてきた。
作り物のような美しい顔が目の前に迫り、一瞬ギョッとする。

「私は貴方のことが好きよ。愛しているわ。それでもダメかしら」

それは、愛の告白だった。
前、僕を殺そうとしてきた時に口走っていたことから、好意を抱かれているのは認識していたが、面と向かって言われた時の心への衝撃は、これっぽっちも緩和されてくれなかった。

「僕も、美影さんのことは好きだよ。広義では愛していると言ってもいい。だからと言って、すぐにどうこうしたいと思っているわけじゃないんだよ」

剥がれかける平静の仮面を、必死に被り直しながら答える。
愛している。嘘じゃない。だけど物事には順序があって、何より美影さんの僕への愛がどんな形なのか、それをわかっていないうちに行為に及ぶのは、分別のつかない子供を誑かす不審者と同様の所業だろう。
脈打つ心臓に急かされながら、穏便に断るための言葉を探していくが。
美影さんはそれを許してくれなかった。

「信じられない。貴方は私の次に、どの女のところへ行くのかしら。
 ミナかしら、それともあの混じり物かしら、頭巾の子供、は無いと思うけれど。
 ━━━━━許せないわ。私から離れるなんて、許さない。貴方は私のモノなのだから、私の側に居続けなさい。
 貴方がいなくなると、私の生は酷く退屈でつまらないものになってしまうの。
 貴方がいない世界を、私はもう忘れてしまったの。
 ねえ、支。貴方はどうすれば私に縛りつけられてくれるのかしら。
 貴方の好きな、契約。必要な対価があれば、あげるわ。少しくらいは、変わってあげてもいいわ。食事も、散歩も、我慢してあげてもいいわ。私の身体だって、獣のように貪ってくれて構わないわ。
 だから、私の側にいてちょうだい。私を置いていかないで。もう、ひとりにしないで」

脅迫というにはあまりに拙く、告白というにはあまりに暴虐で、弱音というにはあまりに力強く、嘆きというにはあまりに静かだった。
そんなことを言いながらも、その眼に宿っていたのが寂しさでも涙でもなく、純粋な怒りと不快さだったのはとても"らしい"けれど。

通報 ...