kagemiya@なりきり

MELTY BLOOD企画SSスレ / 15

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支とヴィルヘルミナ・邂逅(1) 2024/02/20 (火) 21:54:04

あの夜は静かだった。
日付が変わる直前の、皆が寝床に就く時間。
僕は住宅街を歩いていた。
普段であれば、すでに晩御飯を済ませ、熱いシャワーを浴びて、次の日の予習か、健康的に睡眠をしている頃だった。だけど、その日はなぜか、深夜に無性に外に出たくなってしまった。
今思えば、その根拠の無い発作的な衝動も『たまたま』だったんだろうとわかる。
おかげで僕は彼女に出会えたのだから。これを幸運と言わずして何と言おう。

美しいものを見た。
否、美しいものに、魅入られた。
街灯に照らされた道の中央に、女の子が倒れていた。闇の中で一際目立つ白銀の髪。鮮やかな赤に染まった高価そうな黒いドレスから伸びる手は、生者とは思えないほどに白かった。
白。黒。赤。白。それらの色彩は、この世界から切り離されているかのように場にそぐわず、浮いていた。まるで映画の中から飛び出してきたような非現実感。初めて味わう、地に足のつかない感覚。
僕は、誘蛾灯に集まる虫のように、吸い寄せられるように、何かに背中を押されるかのように、歩を進める。
抵抗はできない。抗おうという発想が浮かばない。ただ彼女の元に辿り着かねばならないと、なぜかそう思った。
街灯が照らす範囲に、僕の足が到達する。夜のジョギングのために履いてきた運動靴が、反射光を撒き散らす。
それが目に入り起こされた、というわけではないだろうが、僕の足元にいる女の子の身体がピクリと動く。どうやら、生きてはいるようだ。

「キミ、意識はある?身体は動く?怪我をしているのなら救急車を呼ぼう。困っているのなら、何か僕にできることはある?」
呆れ返るほどに常識的な問答。きっと、この時の僕は、非現実的な目の前の女の子を、心のどこかで否定したかったんだろう。近づいてみて、ドレスの赤色が血であるとわかり、異常性をさらに強く突きつけられた僕は、普通という拠り所に縋ろうとした。
けれど、そうはいかなかった。
「…………血…………血が……」
 倒れた身体を起こそうと、手を道路につきながら、彼女は言う。
「血?出血は止まっているようだから━━━」
「血を、あなたの、血を、よこしなさい」
言うが早いか、女の子は目にもとまらない動きで僕に襲いかかり、僕の首を、噛んだ。今の今まで生きているかもわからないほど憔悴していたはずなのに、その動きは少女のそれでは、いいや、人のそれではなかった。

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