kagemiya@なりきり

MELTY BLOOD企画SSスレ / 11

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彼と別れて数分。少し歩いただけで、空模様はまたバケツをひっくり返した様な豪雨になっていた。不安定な気候……。やはり予報など信用ならない。
熱いのは慣れっこだが、冷たいのはそんなに慣れていない。ようやく、一人で暮らしているアパートのすぐ前まで辿り着いた。
エントランスに入りがけ、雨でぼやけた道の向こうから、何やら見覚えのある人影が近づいて来るのが見えるや否や、向こうから声を掛けてきた。

『……あ!ステラちゃんだ~!……あれ、傘持ってないの?ビショビショじゃない。』
「……ナンシーさん」
『連れないわねー。ナナで良いのに。』

ナンシー・ディッセンバー……彼女にとり数少ない、名前を覚えている女性だった。
自分と同じ、聖堂教会からこの街へ派遣されて来た、ニルエーラ聖彩騎士団(総勢一名)の団長……。
様々な異名をとる誉れ高い聖騎士(パラディン)というが、管轄が異なるのであまり良く知っているわけではない。
一方でひとたび挨拶に行って以来、やたらと自分に絡んでくる様になった。色々な面で謎の多い女性だった。

『傘入る?大変でしょ。』
「いえ、結構です。住んでるの、ここなので。」
『へぇ?。いいこと聞いちゃった。』

今度遊びに行っちゃお、などとはしゃぎ始めたナナを見て、彼女は内心で失敗した、と思った。
せめて部屋番は秘密にしておかなければ。いつインターホンを鳴らされるか分かったものではない。

『せっかくだし、軽く拭いたげよっか。こっちこっち。』

言うが早いかナナはエントランスに入って来て、タオルを持ち出し、凄い勢いで手招きをして来る。
……現に寒いし、部屋の玄関には拭くものもない。廊下が水浸しにする事もないし、厚意を無碍にする理由はないだろう。
近寄ると、すぐさまタオルを上から被せられた。力強く、しかし繊細な手付きで、髪から身体まで水分が落とされて行く。

しばし身を任せながら、彼女はナナについて思考していた。相変わらず、この人のことはよく分からない。何が楽しくて自分に構うのだろうか?
魔との混血。それは聖堂教会の討伐対象ではないが、さりとて忌まれる存在に変わりはない。夢魔の血が入っている彼女は、表立って排斥された事こそないが、それでも水面下では少なからぬ反感にさらされてきたのは事実だ。
だからこそ、何ひとつ隔壁なく好意的に振る舞い、そのように自分に接してくる教会の人間など、彼女にとっては珍しく感じるものだった。
そういった在り方も含めて、評判通り、色々と規格外な人物なのだろう。いつも一緒のお付きの人には同情を禁じ得ない。
タオル越しにしきりに頬を撫でられ、思考を中断されながらもそんな事を考えていると、不意に手が止まった。

『はい、こんなものでしょ。でもほんとにずぶ濡れねー。上から下まで透けちゃって。可愛いんだから、少しは気にしないと』

タオルが外される。指摘されて初めて、彼女は自分の身体に目をやった。
見れば肌に張り付いたブラウス越しに、薄ピンク色の下着と、白く透き通る様な、しかし僅かに紅く彩られた、生気に満ちた肌色までがはっきりと透けて見えて居る。
彼女はそれに気付いても大した動揺を見せることなく、ずぶ濡れのスカートの裾をおもむろに絞り始めた。

「……え?あ、本当だ。ん、気を付けないとですね。……わたしの身体なんて、見てもいい気分にならない。」
『そう思ってるの?アタシはとっても嬉しいけど~?』
「えぇ……?」
『もっと自分に自信を持っていいのよー?それだけのものは持ってるんだし。ね?』
「……はぁ」
『じゃ、アタシ用事あるから。またね~!』

そう告げて、彼女は嵐の様に過ぎ去って行った。……最初から最後まで、よく分からない人だった。

彼女と別れた後は、何事もなく自室に帰ってくる。びしょびしょの制服を絞り、濡れた下着を脱ぎ、洗濯機に入れながら、ふと帰り道のことを思い出す。
支くんにも、わたしの身体を見られていたのだろうか。
……だとしたら、どう思われていたのだろう?

そんな他愛もない考えを抱きながら、一人、浴室に入って行った。

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