「ナナ様は!? ナナ様がどちらに行かれたかご存知ありませんか!?」
空港付近にある教会にシスター・フラムの焦燥感が滲む声が響き渡った。
まったく迂闊だった。昨日の晩は大好きな酒もやらずに大人しく床についていたから油断したのだ。
修道服姿の少女に詰め寄られた現地の司祭は額に汗をかきながら、「さ、さあ」とどもることしか出来ない。
「朝まではこちらにいらっしゃったのを見かけましたが、それからは………」
「朝!? 朝というと具体的にはいつ頃のことでしょうか!?」
「礼拝の時間です。準備を始めた頃にふらりとお外へお出かけになりましたな」
それを聞いたフラムはくらりと目眩がしてその場に崩れ落ちそうになった。
早朝! そんな時間に出ていったのでは、今頃何処を気まぐれにほっつき歩いているか見当もつかない!
あの女の頭の中に物怖じという言葉はない。知らない街だろうがずんがずんがと進んでいってしまう人なのだ。
あるいは誰にも知らせずに既に現地入りしているなんてことも十分あり得る。
数で対象を囲み圧倒するというのが聖堂騎士の基本戦術だが、ナナはその範疇に収まらない例外的存在なのだから。
ふと目を離した隙にいなくなって、明くる日にふらりと帰ってきて「終わったよ~」なんて何度あったか知れない。
そんな規格外に付き合う自分の身にもなってほしい。フラムは実にまっとうなごく普通の信徒なのだ。本人比では。
「あ………あんの、脳みそ無重力のスーパー××××自由人めぇぇぇっ!」
敬虔な信徒が発した言葉とは思い難い小汚い悪態が静かな教会内部に木霊した。
いかにも気弱そうな初老の司祭は肩を怒らせるシスターを前にしてただおろおろするのみだった。
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