茨城県国際交流協会(IIA)主催の茨城県地域日本語教育の体制づくり推進事業・和4年度事業報告会(令和4年度 :文化庁採択)にオンラインで参加しました。(2023年2月20日(月))
全県の広域を4地域に分けての取り組みが意欲的に行われていたことが分かりました。県の委嘱を受けた担当者の熱意が伝わってくる発表でした。担当された皆様に、地域日本語教育への参加者として、感謝致します。
質疑応答で、気になりました。
1) 地域日本語教室の方からの質問への答えで気になったことがあります。有資格者の日本語教師を迎えての基礎日本語教育の場の運用についてのことです。
今までは、有資格者の方が地域日本語教育の教室に入って来ても、日本語学校教師に引き抜かれていきました。最近は、質問された方の所のように有資格者も入ってきますし、日本語教育能力検定試験に合格する若い方が増えています。大学の在学生も合格していますし、20代の方で合格する方も多くなっています。全体としては良い状況ですが、その処遇や人材育成に関する質問だったのです。残念ながら、現状を紹介されての的を射た回答がありませんでした。
そこで感じたことは、現場では若い有資格者は経験もなく戸惑っています。経験豊かな無資格者はやさしく見守っています。人材育成と人材活用は、これからの運営上大事な課題です。専門家と専門性についての議論も深めて、資格や経験を問わないで参加してもらっているボランティアの養成やあり方をめぐって、茨城県の取り組みにはまだ課題が残されている様に感じました。この点を今年度の計画で修正してくださることを期待しています。
課題はこれからです。既存の日本語教室と是非連携していただきたいと思います。その実績と悩みを、また、可能性を認識していただきたいと願っています。
発表で気になったことがあります。
2)「会話」と「対話」についてです。
発表者は「会話」は一人で一方的にしゃべっても会話です、と嘆かれていました。そこで今後は対話による地域日本語教育が大事であると力説されていました。
『地域日本語教室は日本人と外国人との「会話」ではなく、「対話」の場』
そこで、「対話」とは何かを皆さんと一緒に深めていきたいと思います。
日本語には様々な「話し言葉」があります。(演説・対話・会話・叫び・独り言・・・)井上ひさしは「話し言葉大百科」の中で、日常会話をA・B・Cの三つに区分しています。それほど会話の形態は多いのです。平田オリザは、会話は私的な領域で交わされることが多いことを指摘しています。対話は公的な領域で意識的に交わされる話し言葉の形だと指摘します。「知り合い同士のおしゃべり」と「他者との有用な情報交換」との違いが見て取れるというのです。放っておくと日本語は対話が下手な言語です。
古代ギリシア時代は悲劇と哲学の発達した時代として、日本の中等教育ではよく扱われています。プラトンの対話篇であり、ギリシア悲劇では対話形式で演劇が進行します。人々は、対話を通じて、コンテクストを摺り合わせて共有して行くのです。そして新たなコンテクストの生成に向かうのです。ここに多文化共生社会の可能性が見出されます。対話に臨んでいる者は自己のコンテクストの変容にも寛容になる必要があります。
それが地域日本語教育の教室でも展開している対話ではないでしょうか。
MIFA日本語講座委員会
宮本敏弥
(文化庁地域日本語講聴くコーディネーター研修終了:H29)