ヘビ貿易の掲示板

SS・短編置き場 / 9

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最、どう最近? 2022/07/03 (日) 23:02:08

オモシロ泡どFさんのアイデア
砂漠の開拓地 開拓録

一章
ここまで、本当に長かった。ついに見つけた理想の土地。新たな歴史が、ここから始まる。俺はここを「ユートピア」と名付け、名前通りの理想郷を作り上げることを決めた。
今はまだ何もない更地だ。岩も残っていて、理想郷どころか一つの建物すら建てられそうもない。だが、必ず完成させてみせる。どんなに時間がかかっても、どれだけの犠牲を払っても。
女神様、どうかこの勇気ある一人のヘビとこの土地の幸運をお祈りください。この広い土地が発展していく様子を、ぜひその慈悲深い目で見届けてください。

二章
開拓の第一歩は、土地を整えることだ。このような荒れ果てた土地に手を加えずに建設を始めるというのは、さすがに無理がある。まずは障害となる岩を取り除き、サラサラの砂だらけの土地を安定させる。食料の安定供給と土地の改良のため、砂漠でも元気に育つ植物を植えることにした。
さらにボーリング調査の結果、ここにはオアシスがあるらしいことも判明した。整地に合わせてこの採掘も開始した。つい先日までただの更地だったここに、新しい風が確かに流れている。
女神様、どうかこの土地の開拓を見守っていてください。この広い土地に新たな「なにか」が芽吹く様子を、ぜひあの高い空から見届けてください。

三章
掘削を進めていたオアシスが無事に見つかった。ちょうどこの土地の真ん中あたりにあることから、これを女神像と並ぶ繁栄の象徴とすることにした。水とは生命の源である。
開拓が進んだ土地には、自然と人が集まった。それは表社会の常であり、同時に裏社会の常であった。人が集まり栄えるのは喜ばしいことだが、治安の悪化には何らかの処置を取らなければいけない。規則の発布や警備の強化が必要だろう。
女神様、どうかこの土地の発展がさらに続くようお力を貸してください。この広い砂漠の一点に人々が「なにか」を築いていく様子を、ぜひその寛大な心とともに見届けてください。

四章
ついに人々をもてなすための施設がひとつ完成した。しっかりとした床と屋根、壁があるということは、この荒れた砂漠の中にただ一つ「文明」そのものを感じさせた。警備を強化したことで以前のようなごろつきはめっきり見なくなったが、マナーの悪い客には困ったものだ。カジノを設置したことが関係しているのだろうか?
外にも小さな工業地区を作った。工業地区といってもいくつかの精錬設備くらいしかないのだが、それでも技術的には以前より高い水準の物を扱えるようになった。工事のための業者や重機は、隣にもう一つ土地を買ってそちらに移動させることにした。
女神様、どうかこの繁栄が永劫の物となるよう神聖なる加護をお授けください。この広い世界に一つの理想郷が創られていく様子を、ぜひ信仰の絶えぬ限り見届けてください。

最終章
傲慢なるヘビは、その身に似合わぬ野望を抱いた。到達不可能な理想郷を夢見て開拓を進め、栄華を極めたそこは現実とは引き離された別世界を創り始めた。やがて新たな物質を生み出し、人々は安寧の夢に溺れ、理想郷はその中にのみ在った。
今や理想は跡形もなく、あるのは怠惰な幻とまどろみのみ。果てなき欲を空想で満たす、虚ろな魂が彷徨うのみ。実に愚かで、嘆かわしい。なんと愚鈍で、無能なことか。
私の力を過信し、妄信し、さらには現世への干渉を求めたやつの理想と貪欲が生み出した世界。せめて私の手で、再び無に帰してやろう。その幸福を奪い去り、無知と輪廻をまた授けよう。夢を見る者がいる限り、深淵に触れる者がいる限り。

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