『図解 中国の伝統建築』
著者 李乾郎
訳者 恩田重直、田村広子
マール社
中華ファンタジー、歴史、時代モノの建築一般について役立つ一冊。
訳者あとがきにはこうある。
わかりやすく中国建築を図解した本書は、旅行ガイドや中国の歴史小説の舞台背景の副読本として、はたまた物書きや漫画家、イラストレーター、ゲーム制作者などのクリエーターの参考書として、広範な読者に受け入れられると信じてやまない。
【良い点】
・中華ファンタジー、歴史、時代好きからすると、類書が少なく、「待っていた一冊」。安くはないが、納得できる価値がある。解説を読まなくても、写真やイラストを眺めるだけでも楽しい。
・写真、イラストがオールカラーで、中国の伝統建築の視覚的イメージがつかみやすい。白黒主体だと、イメージがつかめないことが多い。
・特に内部構造が分かる、美麗な透視図はお見事。
・寺院、宮殿、民居(住宅)と、特定のジャンルや地域にあまり偏らず、バランスよく取り上げられている。
・コラムで部分的な取り上げになっているものもあるが、紙幅を割いて取り上げられた主な建築は、全体像が分かるようになっている。中国旅行のガイドブックを見ても、部分的には分かるが、全体像がつかみづらいこともある。
【残念な点】
・ラサのポタラ宮がコラムで簡単な扱いにとどまっていたこと。ポタラ宮を模した、チベット仏教寺院「普陀宗乗廟」が大きく取り上げられているならば、本家のポタラ宮も普陀宗乗廟と同程度の紙幅で取り上げ、どう模したのかを対比できるようにしてほしかった。
・巻末に用語集があるが、項目順に並んでいるだけなので、少々不便。五十音順の用語索引が、ほしかった。また、用語集の箇所に載っていない用語もある(例、125ページの「裳階(もこし)」)。
・屋根の解説は用語集よりも、52ページのコラムのほうが詳しい。「52ページのコラムを参照のこと」と書いておいてほしかった。ただ、屋根の写真が、上から見下ろす構図ではなく、下から見上げる構図だけなので、素人目にはよく分からない。上から見下ろす図があるWikipediaのほうが分かりやすかったぐらいだ。
・「中国伝統建築」からは少し外れるが、モンゴル族、チベット族の遊牧民のテント、チベット自治区や新疆ウイグル自治区の民居も全体像が分かる形で取り上げてほしかった(一応、ウイグル族の民居は、コラムの形で簡単に取り上げられてはいた。ただ、部分的な取り上げであり、全体像が分からない)。