S Sekiguchi 著 · 1972「五時八教」という成語は、天台大師にはない。
天台大師みずからの教相判釈を説いた法華玄義の第五の教相玄義のなかにそれが見出だせないだけでなく、法華玄義全十巻のどこにもついに一度としてこれを見ることができない。法華玄義だけでなく、法華文句全十巻、摩詞止観全十巻をあわせての天台三大部のどこを漁つてみてもこれを発見することができない。三大部だけでなく、数多い天台大師の撰述のいずれにおいても、 「五時八教」はついぞこれを見出だすことができない。つまり天台大師には 「五時八教 」という用語はまつたく存しなかったのである。従来の通途の観念からすればむしろ奇怪なこととも感ぜられるであろうが、しかし事実は事実として動かすことはできない。したがつて、天台大師のいかなる撰述においても 「五時八教 」を見出だすことができないという事実に基づいて、「天台大師、五時八教をもつて東流一代の聖教を判釈たしもう」とする従来の通途の観念が、まず疑われなければならない。
この文章を投稿された方は『法華玄義』を本当に読まれてこの文章を書かれたのでしょうか。
昭和40年代に天台宗の仏教学者で関口真大文学博士(1907-1986)が、
五時八教は天台教判に非ず
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ibk1952/21/1/21_1_6/_pdf/-char/ja
頓漸五味論 関口真大
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ibk1952/26/1/26_1_61/_pdf/-char/ja
天台大師教学の綱要 関口真大
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ibk1952/25/1/25_1_47/_pdf/-char/ja
といった天台宗の教相判別である「五時八教」が智顗説ではないという学説論文を学会で発表されております。
『ウィキペディア』の文章は「S Sekiguchi 著 · 1972」からの引用となっておりますが1972年(昭和47年)に書かれた著書です。関口論文の内容がどういったものだったのか、論文を読みもせずに「天台の五時八教は間違っている」と思い込んでいる人達が沢山おられるようです。
関口氏の学説に対しては、以下のような反論がなされております。
天台五時八教論について 関口博士の疑義二十五力条に対する回答
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ibk1952/24/1/24_1_260/_pdf
開口博士の五時八教廃棄論への疑義 佐藤・浅田・関口による対論
https://www.jstage.jst.go.jp/article/ibk1952/23/2/23_2_810/_pdf/-char/ja
「経典成立史の立場と天台の教判」(佐藤泰舜著)をめぐる諸問題 山内舜雄
http://repo.komazawa-u.ac.jp/opac/repository/all/18582/KJ00005114024.pdf