おんJ艦これ部Zawazawa支部

おんJ艦これ部町内会 / 223

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村雨の夫 2017/06/05 (月) 21:11:01 修正

「よ、っと……」
「ほー、巧いじゃないか」
朝霜の手は気が付けばなかなか器用になっていて、かわいらしいてるてる坊主が期待できる。シルエットは、綿の詰めすぎでぎこちないけれど、それもまた味だろう。……でも涼風、ちょっとは止めてくれ。

「む~……」
「そうそう、そうやって…」
睦月はまだ少し針仕事が怖いみたい。仕方ないことだ。とはいえ、隣に座る時雨義姉さんの指導下で怪我なく進行中。

レベルアップを図るお姉ちゃんと、ママのお手本に憧れた妹。針を使わずに作る方法もあるのに、二人とも即答で高レベル版を選んだ。その迷いのなさは、もはや頼もしく思える域。日曜日・リビングの手芸教室も元気いっぱいで何よりだ。

「いつも悪いわね」
「いーのいーの。姉妹じゃない」
そして、ダイニングでは白露義姉さんと村雨ちゃんが手芸材料を確認している。村雨ちゃんは端切れ布やフェルト、革をはじめとする売り物にしづらいものをもらって、作品を作ることが多い。「あおぞら」としても、端切れの安売りスペースが一杯になりすぎないように我が家に流したいくらいと言っている。
だとしても、一応材料費は出させてほしい…と、考えたのも何年前までだっただろう。姪と遊んで食卓を囲むのが十二分に報酬だと言いつけられてからは、もう何も言えなくなった。それぞれ個性の強い女の子…今は女性だけど、一度皆でそうと決めたら聞かないのは、やはり姉妹ということか。感謝を込めて、歓迎するのみ。

「それにしても、ちょっと今回は多いね?いっちばんの大作作るの?」
「んー…大作っていうか、多作かな?」
「ふーん?」
結局、僕と村雨ちゃん、雲龍さんと旦那さん、グラーフ氏と奥さんの分だけ作ることにしたそうだ。子供たち、もとい女優三人にウォースパイト、青葉お衣飛龍さん……と手を広げていくといよいよキリがない。それに、うちの娘は二人とも参加したけれど、お他所の娘さんは参加してない子もいる。ならば絞った方がいい。
だけれど、その一方で彼女は同時進行で新任の先生三人――サラトガさん、由良ちゃん、鹿島ちゃんまでお祝いする気だという。なんたるプロめいた手芸マラソンか。

ちなみに、先日の母親会で雲龍さんとゆっくり話したけれど、新作のことは話していないらしい。改めて相手を知り、仲良くなって、モチベーションが上がった村雨ちゃんは、サプライズを目指して一層楽し気。
紅茶を淹れる僕は、その背中を止めることができず、無理しないでねと思うばかり。小さなアクセサリーとはいえ、数が重なればなかなか大変だけれど、言って聞くひとじゃない。
いざというときすぐ止められるように、目を離さないことくらいしか出来ません。あとはせいぜい家事をするとか…新作の発案で煮詰まって、心配かけたりしないとか…かな。がんばろ。

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    村雨の夫 2017/06/05 (月) 21:11:54 修正 >> 223

    その夜。
    「うふふ。ちょっと面白いでしょ?」
    「うん、まぁ面白いけどさ…」
    各々が作ったてるてる坊主は、睦月と涼風が二つ、朝霜と時雨義姉さんが三つ、僕と白露がひとつずつ。村雨ちゃんは二つ。合計で14個。店に飾る姉妹十人分で十個。四人家族で四個。そこまではいい。
    盲点は、最初に出されたお手本の完成品・村雨ちゃんモデルもあったこと。
    僕、睦月、朝霜、村雨ちゃん。もう一つ村雨ちゃん。さらに十個。つまり――村雨ちゃん以外にもう一人、二つ分作ったてるてる坊主がいる。これに気付けていなかった。

    「もう一回やる?ほら、つんつーん」
    「いっちばーん!」
    「あなたが言うと、なんだかおかしいわね」
    「……裏声は苦手だよ」
    書斎の窓に付けられたてるてる村雨ちゃん。それを吊るした紐には細工がされており、つつけばフックで留めて隠した白露義姉さんモデルが下りてくる。いたずら好きの義姉さんがやりそうなことだ。

    「店のレジのはふたりが上下逆になったモデルを飾るんだって」
    「村雨ちゃん、現役店員じゃないもんね。隠しヒロインだ」
    「……なぁに。私が攻略されてもイイの」
    「いいわけないでしょう」
    ちょっと言葉選びを間違えてしまったかな。だからって、「キャラ」だなんて軽い言葉にしたくないもの。そういう理屈ばった言葉を言うわけにもいかなくて、適当に軽くチョップ。むっとした顔もかわいい。

    「そんな男が現れたら、軍刀だって抜いちゃうぞ★」
    「あなたの場合、本当にやりかねないわね」
    「ま、離れたくないからね」
    「離れませんよ、もう」
    あきれて苦笑する彼女を抱きしめると、くすぐったそうな笑い声に変わる。

    そして、うずめた顔をあげた彼女から、怪訝な声。
    「……あれ?じゃあなに?白露があなたの隠しヒロインなの?」
    「勝手に設置しておいてとんだ言いがかりを」
    「どーなのよー」
    「ないない。僕には君だけだよ」
    唯一無二のヒロインは、少しだけ葡萄の香り。早めに寝かせておきましょう。
    不慣れな手つきで作った、僕モデルのてるてる坊主が待つ寝室へ。