キツネが立ち上がってから、ふと動きを止めた。
泉光院の傍らに、もう一つ袋があるのに気付いた。
自分たちのものとは、色が違う。
渡す相手の区別がつくようにしたのだろう、と察せられた。
「それも、誰かにあげるつもり?」
「ああ、これは先生にと思って」
泉光院は、大事そうに袋を両手で持った。
キツネは視線をそらし、顎に手を添えた。
少し間があってから、ぽつりと言った。
「頭の古いミヨシが、チョコなんて食べるかしら」
「え」
目を合わせぬまま、キツネが続ける。
「バレンタインを知ってるかすら怪しいし、無礼者って一喝されたりして」
「そんな、まさか…」
思い当たる節が、ないわけではない。
泉光院の表情に、不安の色が浮かぶ。
その横で与次郎は、キツネが密かに舌を出したのを見逃さなかった。
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