ヤマノスしゃべり場

SSスレ / 36

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「厳格なところ、あなたらしいわ。でも」
アグリコは、自分の髪留めを外した。
そして、お沢の前髪をかき分け、その髪留めを付けてやった。
「忘れないで、私たちが側にいるってことを」

お沢は両目をぱちくりとさせて、髪留めに手を触れた。
視界が開けたような気分だった。
少年と与次郎もうなずいた。

かつてアグリコに説いたことを、お沢は忘れていた。
この場にいる者たちを見回した。
自分は、一人ではない。
皆、いるではないか。

「並んで走ることはできなくても、ちゃんとついて行くから…」
アグリコが、気恥ずかしそうに笑った。
暗く険しい道を、お沢はこれからも進み続ける。
アグリコは、先駆けするお沢を見失うまいと決めたのだ。

お沢は、まっすぐアグリコの方を向いた。
いつもの不敵な笑みではない、柔らかな微笑を浮かべていた。
「あア、よろしくなアグリコ。いや…アグリコ稲荷」

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