二ヶ月後、アグリコは伏見からの帰途にあった。
村人たちの協力を得て、無事に正一位を賜ることができた。
当初は、京をゆっくり見物してから帰るつもりでいたが、
やがて、早く故郷に錦を飾りたい気持ちが勝るようになった。
越後と出羽の境で、道の向かいから長身の男が駆けて来た。
アグリコの見知った相手だった。
「あら、与次郎ちゃん。迎えに来てくれたの?」
「た、大変だよ!」
健脚の与次郎稲荷に背負われ、アグリコは古館山へ向かった。
社で目にしたのは、意識を失い横たわるお沢だった。
首に巻かれた包帯は、赤い染みができている。
治療を行うために、後ろ髪がばっさりと切られていた。
「どうしてこんなことに…」
アグリコは顔を青ざめ、全身を震わせた。
お沢の眷属や近隣の神々から、話を聞くことができた。
前日、お沢は熊の妖と戦っていた。
激戦の果てにとどめを刺した瞬間、妖が最期の力で反撃した。
長く鋭い爪が、お沢の首を貫いたという。
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