ヤマノスしゃべり場

SSスレ / 31

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数日前、アグリコは夜鷹に扮し、旅の男に誘いかけた。
しかし寸前になって怖じ気づき、這う這うの体で逃げ出した。
お沢の耳に入るとは誤算だった。
変化していたし、人目もなかったので、油断していた。

「規律を乱す者は斬る。わけがあるなら言ってみろ」
お沢は、もう笑ってはいなかった。
アグリコは誤魔化すこともできず、うつむきながら話し始めた。

村の人々に尽くしてきた徳が、伏見に認められたこと。
正一位を賜ると決まったが、そのために莫大な金が必要なこと。
金策に走り回ったものの、どうしても十両ほど足りないこと。
全ての事情を説明した。

お沢が、ふうっと溜息をついた。
「そんなことで自分の身を…」
「そんなことって何よ!」
アグリコが、語気を強めた。

「あなたはいいわよ!ずっと昔から、稲荷だったんだから!」
「私みたいな神が伏見の目に留まるのは、大変なこと!」
「やっと認められた、報われたのよ!」
「こんな機会、私には、もうないもの…」

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