猪はゆっくりと向き直り、暗い瞳でアオを見た。
互いの視線が交錯すると、猪は再び疾走した。
(こいつはオレたちを獲物に決めた。やるしかねえ!)
アオは右足を突き出し、猪の牙を正面から受け止めた。
両者は膠着状態になったが、それは数秒と続かなかった。
猪は首を捻ると、アオの右足を銜え、放り投げた。
アオは受身を取り、すぐさま立ち上がる。
ジーンズが膝から千切れ、スニーカーも脱げていた。
「アオさん、その足…」
ハジメがひどく驚いた顔をしている。
露わになったアオの右足は、馬の足の形をしていたのだ。
蹄に付けた蹄鉄が、鈍い輝きを放っていた。
「説明は後だ、ハジメ。ここはオレが何とかする」
アオの動きは、まさしく馬のように素早かった。
襲いくる牙を蹄鉄で防ぎつつ、アオは猪に何発も蹴りを入れた。
しかし、猪は全くこたえる気配がない。
次第にアオの息が上がってきた。
(なんて頑丈さだ、こいつ)
猪は、じれったそうに前足で地面を掻いた。
すると、見る見る牙が巨大化した。
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