錫杖と笠を置き、泉光院はアグリコの隣に正座した。
彼の困惑をよそに、アグリコは勝手に話し始めた。
泉光院は相槌を打ちながら、ぽつぽつと喋る。
共通の思い出もあれば、知らないこともあり、話は尽きなかった。
「それでね、お沢の格好に髭長が怒っちゃって…」
アグリコは軒裏を見上げ、お沢と出会った日を思い出していた。
ふと、左肩に重みを感じた。
目を向けると、泉光院が寄りかかり、静かな寝息を立てていた。
その時、アグリコは悟った。
泉光院の勤勉さは長所だが、自ずと心身を激しく消耗する。
キツネや与次郎と共に、ひどい怪我を負ったこともあると聞く。
無理をするところまで、師匠に似てしまったのかもしれない。
「あっ!ご、ごめんなさい」
慌てて起きた泉光院が、寝惚け眼で恐縮する。
「いいのよ。さ、いらっしゃい」
アグリコは、泉光院の頭を優しく抱え、横たわらせた。
通報 ...