アレは今の当主が道楽で飼い始めた白鳥の一匹。
1番可愛がられた立派な雄。
真っ白な雪のようなその身体。
だがその心は闇よりも暗く深く絶望していた。
「渡りもできぬ白鳥など、白鳥ではない…」
遠い空を見上げて白鳥は言った。
風切り羽根を切られて飛べない翼の手入れをする。
その美しい首を優雅に伸ばして私を見る。
「稲荷様、本当はあなたも、ここにおられるのは不本意なのでは?」
美しく、細い、首。私の手で簡単に手折ってしまえそうな首。
哀愁を誘い、妙な色香を放った。
「もう戦の時代ではないのに、いつまでその姿で?」
あざとく傾げられた首。
ざわざわと怖気がたつ。
「長年この姿デ慣れていル…」
私の言葉など聞かずに、白鳥は言う。
「ああ、生まれた北の湿原に帰りたい」
白鳥の見上げる視線の先には飛びゆく同胞。
「誰か私をここではないどこかへ連れてってくれぬものか」
彼は囚われの身を嘆く。
「他人任せにすルな。絶食でもしたらどうダ」
私は提案した。
「エサも取らずに衰弱すれば、殿も自然に返そうと思われるかもしれぬ」
飛べない鳥は肥えはじめていた。食べることしか楽しみがないのだ。
白鳥は一夫一婦。捕らえられた時に、彼のつがいは殺されている。
「お前を哀れだとは思う。だが、逝きたければ1人で逝け。他者を巻き込むな」
私の言葉に白鳥はニヤリと笑って呟く。
「稲荷様のいじわる…」
その目に宿る闇と狂気。まるでそこに噛みつけと言わんばかりに晒された白い首。
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「あの鳥は死にたがっテいた。よく知ってイる」
「お沢様!」
縋るように見上げる狐。情状酌量を期待する眼差し。
「だから私がお前に聞きたいのは、白鳥を食ったことに対してじゃナい」
私は狂った白鳥に気づき、すぐに注意喚起を促したのだ。“殿の白鳥に近づくな”と。
「私の言葉を無視したことに対してダ。さア、申し開きを聞こうカ」
わあ!うまくまとまらなかった話にまで挿絵が!ありがとうございます!
ってちょっと太り過ぎでは……笑。
あの話。
白鳥が渡鳥のハクチョウであるなら、飼ってる殿が1番悪いと思ってたらこうなりました。
本当は「どいつもこいつも、本当に私の話を聞かない」ってセリフをどこかに入れたかった……。
誘いに乗らないし処罰は厳然だし、全くぶれないお沢は流石やね。
あのエピソードから白鳥がこんな病みになるとは思わなかった。
しかも妙にナルというかカマっぽいというか…キャラ立ちがすごいし、
こういう発想ができる玲子さんの頭の中をのぞいてみたい。
ひゃあ!こちらにまで来ていただいてしまった。ありがとうございます!
他力本願白鳥、ブレないお沢様に噛まれたくて、どんどん怪しげになっていきました。
私の頭の中…、うーん、ミヨシ様やアオ様、お沢様とか、かっこいい神様に処罰されたい願望があるのは確かかなぁ。だからサダムネとかカミソリ狐とか羨ましい…。
なるほど、願望の反映でもあったと。
いけないコだ…