Tamanosu forum

たまのす掲示板 / 506

771 コメント
views
2 フォロー
506

アレは今の当主が道楽で飼い始めた白鳥の一匹。
1番可愛がられた立派な雄。
真っ白な雪のようなその身体。
だがその心は闇よりも暗く深く絶望していた。

「渡りもできぬ白鳥など、白鳥ではない…」
遠い空を見上げて白鳥は言った。
風切り羽根を切られて飛べない翼の手入れをする。
その美しい首を優雅に伸ばして私を見る。
「稲荷様、本当はあなたも、ここにおられるのは不本意なのでは?」
美しく、細い、首。私の手で簡単に手折ってしまえそうな首。
哀愁を誘い、妙な色香を放った。

「もう戦の時代ではないのに、いつまでその姿で?」
あざとく傾げられた首。
ざわざわと怖気がたつ。
「長年この姿デ慣れていル…」
私の言葉など聞かずに、白鳥は言う。
「ああ、生まれた北の湿原に帰りたい」
白鳥の見上げる視線の先には飛びゆく同胞。

「誰か私をここではないどこかへ連れてってくれぬものか」
彼は囚われの身を嘆く。
「他人任せにすルな。絶食でもしたらどうダ」
私は提案した。
「エサも取らずに衰弱すれば、殿も自然に返そうと思われるかもしれぬ」
飛べない鳥は肥えはじめていた。食べることしか楽しみがないのだ。

白鳥は一夫一婦。捕らえられた時に、彼のつがいは殺されている。
「お前を哀れだとは思う。だが、逝きたければ1人で逝け。他者を巻き込むな」
私の言葉に白鳥はニヤリと笑って呟く。
「稲荷様のいじわる…」
その目に宿る闇と狂気。まるでそこに噛みつけと言わんばかりに晒された白い首。

通報 ...
  • 507
    玲子 2021/02/17 (水) 20:53:49 修正 >> 506

    「あの鳥は死にたがっテいた。よく知ってイる」
    「お沢様!」
    縋るように見上げる狐。情状酌量を期待する眼差し。

    「だから私がお前に聞きたいのは、白鳥を食ったことに対してじゃナい」

    私は狂った白鳥に気づき、すぐに注意喚起を促したのだ。“殿の白鳥に近づくな”と。

    「私の言葉を無視したことに対してダ。さア、申し開きを聞こうカ」

  • 512
    秋田LV3 2021/02/20 (土) 20:33:08 >> 506

    画像1

  • 514

    わあ!うまくまとまらなかった話にまで挿絵が!ありがとうございます!
    ってちょっと太り過ぎでは……笑。
    あの話。
    白鳥が渡鳥のハクチョウであるなら、飼ってる殿が1番悪いと思ってたらこうなりました。
    本当は「どいつもこいつも、本当に私の話を聞かない」ってセリフをどこかに入れたかった……。

  • 515
    隠れ秋田県民(出張) 2021/02/20 (土) 21:28:42 >> 506

    誘いに乗らないし処罰は厳然だし、全くぶれないお沢は流石やね。
    あのエピソードから白鳥がこんな病みになるとは思わなかった。
    しかも妙にナルというかカマっぽいというか…キャラ立ちがすごいし、
    こういう発想ができる玲子さんの頭の中をのぞいてみたい。

  • 516

    ひゃあ!こちらにまで来ていただいてしまった。ありがとうございます!
    他力本願白鳥、ブレないお沢様に噛まれたくて、どんどん怪しげになっていきました。
    私の頭の中…、うーん、ミヨシ様やアオ様、お沢様とか、かっこいい神様に処罰されたい願望があるのは確かかなぁ。だからサダムネとかカミソリ狐とか羨ましい…。

  • 517
    隠れ秋田県民(出張) 2021/02/20 (土) 23:26:08 >> 506

    なるほど、願望の反映でもあったと。
    いけないコだ…