おんJ艦これ部Zawazawa支部

おんJ艦これ部町内会 / 116

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村雨の夫 2016/10/24 (月) 22:19:59 5c457@0012b

「なぁ龍驤さんや」
「なんや藪から棒にさん付けなんてしてェ、気色悪い。ほい」
鋭すぎる切り返し。お茶を注いでくれる手の静かさとは真逆だ。
「ありがと。緊張を解すコツとかって知らん?」
「そんなん、キミの専門やろ。舞台とか演台立ってるんやから」
「いや、舞台に立つのもそうだけどさ。もっと日常的な……」
「初対面同士で、ですか?」
「そうそう、そんな感じ」
調理場の奥から、日替り定食(豚のしょうが焼き)を持って現れるのは鳳翔さん。載せられた僕の分でない湯呑みから察するに、このまま僕の相談に付き合ってくれるらしい。昼のピークを外した甲斐があった。
「なんかあったん?」と仕切り直しつつ、自前の湯呑みを傾ける龍驤。鳳翔さんが来る前から向かいに座ってるから流石の貫禄だ。僕も挨拶して、二口三口味わってから応じる。
「最近新しく組む人と打ち合わせすることがあってさ。この前は間に入った人のお陰でなんとかなったけど、どうもまだ打ち解けれてなくて」
「ふーん。青葉やお衣や劇団の人に頼るのは別に悪いことじゃないんやない?」
「今度は飛龍って編集さんもいたね。その人と一緒だったからか、慣れてくれたのかはわかんないけど、まぁ上手くはいったんだけど」
「ならええやん。飛龍もな、ええ子やしな」
「あぁ、知ってるの?」
意外なところで繋がりがあるもので、どうやら編集トリオもいいお客さんらしい。
「えぇ。でも、お忙しそうな方ですし、みなさんいつもいられるとは限らないから、橋渡し役がいないときが不安だ……と?」
「そゆことです。豚さん美味しい」
「うふふ。ありがとうございます」
鳳翔さんにはいつも先にセリフを言われてしまう。本人は何食わぬ顔で、冷茶を一口。この底知れなさは、やはり百戦錬磨の空母の長の経験ゆえか。柔和なお姉さんはそんな奥深さも人気の要因、らしい。

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  • 117
    村雨の夫 2016/10/24 (月) 22:23:31 5c457@0012b >> 116

    「そんで、その人となんとか仲良くなれればええんやな?」
    一方、長と並び立つ軍師は思案しつつ即座に切り込む。ざっくばらんに見えて思慮深く、面倒見もいい彼女もまた人気者。
    「せや、キミのお話の男の子、どんなことしてたっけ」
    「男同士のノリが通じる感じじゃないんだよね」
    「ちゃう、女の子とずいぶんイチャコラしてるやん。そっちや」
    「既婚者に既婚者を口説かせようとするな!……それでなくても、あれは学生の話だからね」
    「ほな酒!大人の付き合いや!」
    「僕が強くないの知ってるだろ」
    「あー、せやったね……。ちょっとキミ文句多いんちゃう?」
    「まぁまぁ、ゆっくり考えましょ。ご飯も冷めちゃいますよ」
    「おっと、ごめん。龍驤もほら、お茶飲んでさ」
    此度の応酬に収穫無し。促されてしまったことだし、食事にもう一度向き合おう。少し冷めかけてはいるけれど、それでもおいしいお味噌汁。生姜焼きの味は強く優しく、白米との相性は語るまでもない。さすが、村雨ちゃんの料理を鍛えただけはある。口の中に広がる世界を堪能していると、二人は僕をにこりと一目見て話を再開する。あれ、口の端にお米ついてたかな。
    「んー、そやなぁ。昔は艦載機の話しとけば新入りと打ち解けたもんやけど」
    「あら、懐かしい。そうですね、その方との共通点というと」
    「何より作家やろ。でもぎくしゃくしてんのに商売の核話せるもんかなぁ」
    「少し難しいかもしれませんね。趣味のお話……今のご趣味は?」
    「んー、ゲームとか?家族と出かけたり。仕事抜きにアニメや本や劇や色々見てるつもりだけど」
    「ゲーム盤持ち込んで、は微妙やなぁ……。せや、最近見て面白かった本は?」
    「最近ならエッセイかな。雲龍って人のなんだけど、独特な視点や雰囲気と読みやすさのバランスがいいんだ」
    いつだったか、えらく速筆のエッセイストがいると聞いて探した一冊だけど、なかなか読み応えがあった。残念ながら素早く書くコツは得られなかったし、シリーズを読み漁るせいで筆が止まったりもしたけれど。
    「ほなそういう話すればええやん?お互い本好きやろ?」
    「確かに、書き手ではなく読者目線なら自然にお話しできるかもですね」
    「そうだな……。海外の本とかよく知らないし、教わってみよう」
    「海外の姉ちゃんなん?なんやザラたちみたいな」
    「名前からしてドイツ系かな?日本語堪能だったけど。飛龍さんに頼ってたのも言葉のせいなのかな」
    「なら異文化交流ということで、うちに招いてもいいかもしれませんね。お待ちしてますよ」
    「はは、鳳翔さん商売上手だね」
    「ウチよりよっぽど戦略家やからね!あっはは」
    「あらあら、そんなつもりじゃなかったんですけれど。うふふ」
    ひとしきり笑って、一件落着。お料理もご飯粒一つ残さずに満足。
    「ごちそうさまでした」
    「「おそまつさまでした」」

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    村雨の夫 2016/10/25 (火) 08:52:53 5c457@0012b >> 117

    「ところで。朝霜ちゃんと睦月ちゃんは学校に行っているとして、村雨さんはどうしたんですか?」
    「なんや、家にカミさんおいて一人だけ贅沢か。悪い男やなぁ」
    食後のお茶で口を潤してから、反論開始。
    「贅沢なのは村雨ちゃんです。ママのランチ会だそうで」
    「あら、ランチ会ですか」
    「うち来てくれればええのに」
    「ねぇ」
    「そう言うと思った」
    お皿を洗いながら、卓上を整えながら、サラウンドに売り込まれても、決定権は僕にないから仕方ない。今日は如月ちゃんのママの番だったかな。
    「せや!村雨ちゃん打ち合わせに連れてきゃええんや!な?」
    「……唐突に何を」
    「だってぇ、お姉ちゃんなんやろ?キミみたいな奥手な坊やより女同士のほうが話が早いわ!」
    「そうですね、授業参観みたいで面白いかもしれませんし」
    「せやったらウチらも見に行きたくない?鳳翔ちゃん」
    「そうですね、お弁当持っていきましょ!」
    「百歩譲って村雨ちゃんはいいけど、なんで二人が来るのさ」
    「だって、ねぇ?」
    「いくつになっても、あなたは私たちの提督(ぼうや)なんですから」
    今回は親睦会でまた来るという条件で丁重にお断りできたけれど、本当に、この二人には敵わない。