日本の警察、検察による捜査において
・発問方法の工夫の現状はどうなっているのか。
認知面接やPEACEモデル*などを参考に、取調べに関連する心理学的知見や、これを踏まえた取調べ技術が掲載されている教本を作成。それを元に警察大学校において取調べに関する統一的な研修を行っている。
2013年5月に警察大学校に設置された取調べ技術総合研究・研修センター(以下取調べセンター)では、教本に基づく取調べ技術を修得するために、「講義・演習・振り返り・評価」のプログラムに沿って研修を実施している。
具体的な内容としては、講義において記憶のメカニズムや自白及び虚偽自白の心理などについて学び、基礎演習で発問方法や傾聴について実技を通して学ぶ。その後に、講義や基礎演習で学んだ知見及び技術を実践するため班ごとに目撃者及び被疑者対象の事情聴取・取調べのロールプレイを実施、その面接を撮影する。撮影した映像は研修生相互、教職員並びに心理学の専門家により再生され振り返り、フィードバックが行われている。
研修自体は8日間であるが、取調べ技術の修得に関わる研修は4日間で行われている。
次に研修自体の効果についてである。研修後での、研修生の発問内容においてオープンクエスチョンに分類される「自由再生質問、うながし」は有意に多くなり、反対にクローズドクエスチョンに分類される「はい・いいえ質問」は有意に少なくなった。また、研修後面接の方が研修前面接よりも獲得情報量が有意に増加し、発問数も有意に減少していた。
しかし、取調べセンターの研修を受ける者は、主に都道府県警察本部の取調べ指導を担当する幹部警察官であるため、採用後間もない警察官は上述したような取調べ技術を身につけないまま取調べを行う可能性がある。なお、採用時教育や昇任時教養及び部門別教養にも研修の一部内容を取り入れていることもあるが、全国的に広まっているとはいえないレベルである。
*PEACEモデル:取調べにおけるコミュニケーション方法で、捜査官が中立的かつ信頼性の高い供述を引き出すための指針。非対立的なコミュニケーションを重視し取調べを進めるモデル。
参考文献
増田明香・和智妙子(2018).「警察大学校における取調べ研修の効果—獲得情報量と発問技術について—」『犯罪心理学研究』56巻,1号,pp.1-12.
検察官も同様に、研修などで心理学者等を講師として招き、記憶のメカニズムや認知面接法、知的障害者への取調べ、司法面接の手法などについての講義を実施している。
2015年、2016年には2週間のPEACEモデルの研修体験をさせるため、検察庁が検察官をイギリスに派遣している。
参考文献
稲川龍也(2016).「いわゆる「司法面接」に対する検察の取組」『法と心理』16巻,1号,pp.31-35.
・他のシステム変数の望ましいコントロールについて、現状はどうなっているか。
被疑者の権利保護と、取調べの可視化のために警察庁が捜査部門以外の部門が被疑者取調べの監督を行いその報告書を公開している。
録画・録音のような方法では無いものの、監察対象行為の内容とその事案件数を報告することで取調べ状況の透明化を図ることができると考えられる。
また、監察対象行為の内容のひとつに「殊更に不安を覚えさせ、又は困惑させるような言動をすること」と明記されており、間接的に威圧的な態度を取ったり脅したりすることを抑制しているといえる。
参考文献
警察庁(n.d.).「警察の被疑者取調べに関する苦情等への対応状況について」.法務省. https://www.moj.go.jp/content/001386729.pdf, (参照 2024-10-29).
・システム変数の望ましいコントロールが進んでいない原因として何が考えられるか。
上記に述べた発問方法の工夫では、取調べ技術の研修が導入されているものの、効果が確認されているロールプレイを用いた研修内容を全国規模で行うのは些か非効率であるといえる。もし取調べ技術獲得のために研修を行うことが最も効果的であると判明したならば、研修内容を簡略化するかもしくは取調べセンターに配置するフィードバックのできる教職員並びに心理学の専門家の数を増やすなどの対応策が求められることになるだろう。
また、他のシステム変数のコントロールとして、捜査部門以外の部門が被疑者取調べの監督を行った報告書について取り上げたが、 調査(監督対象行為認定事案)の端緒別内訳では全体の26件のうち警察内部で認知されたのが18件、苦情等で認知されたのが8件と外部からの指摘によって判明したケースが少ないとは言いきれない報告となっている。つまり、警察内部で監督対象行為に該当することが起こっていたとしても揉み消されてしまう可能性が捨てきれないということだ。これを未然に防ぐためにやはり録音・録画の対応策の導入が効果的に働くと考えられる。しかし、日本では裁判員裁判対象事件、 検察官独自捜査事件でのみ録音・録画の対応策が導入されていないため、その状況も合わせてシステム変数の望ましいコントロールが進んでいない原因となっているといえるだろう。
このように効果が確認されている研修については、非効率的なやり方であるために導入するのが難しいためにシステム変数の望ましいコントロールが進んでいない原因となっていると考えられる。
一方で、報告書に関しては、完全な透明化が出来ていないやり方であるために、内部での揉み消しなどが発生してしまう可能性が捨てきれないためにシステム変数の望ましいコントロールが進んでいない原因となっていると考えられる。
(講義・課題を通して)
発問方法の工夫について、取調べ技術修得のため、研修が導入されていることを取り上げたが現状のやり方には問題があると考える。それは、ロールプレイで面接官役と被疑者役に分かれる両方ともが警察官であることだ。しかも現状の研修対象者が主に都道府県警察本部の取調べ指導を担当する幹部警察官であるという、比較的ベテランといえるであろう立場である。
問題があると考える理由は、どちらの役に回っても取調べの流れをある程度把握しているために、ある程度お互いに予測をしてロールプレイに取り組んでしまうからだ。
取調べを行う立場として、現職の警察官から取調べを受ける経験、つまり被疑者役を体験することには大きな意義があると考える。威圧的な態度やクローズドクエスチョンで聞かれた時にどのように感じるかを知っておくのは重要であるからだ。
しかし、実際の現場ではほとんどが取調べの流れなど知らない被疑者相手に行うものであり、面接官役を体験する時、被疑者役が現職の警察官では再現性に欠けるのではないかと思う。
したがって、面接官役と被疑者役の両方を現職の警察官が行うパターン(これは被疑者役の体験をするため)と面接官役が現職の警察官、被疑者役を取調べの流れを知らない素人に協力してもらうパターンを行うとより良いのではないかと考えた。
しかし、何も知らない一般人に対して協力を仰ぐと、取調べの経験を1回でも受けた人が多発し、取調べのくぐり抜け方ということを言い出す人も出てくるかもしれない。そのため、警察学校に通う生徒や司法修習を受けている検察官志望者に協力してもらうことで被疑者の体験をする段階を引き下げられると共に比較的現実に近い条件で研修が実施できると考えた。警察学校の生徒や検察官志望者であれば取調べの流れは粗方知識として分かっていると思うが、全く流れの分からないであろう一般人への協力依頼と天秤にかけた時、より現実的なのは前者であると推察した。
取調べにあたる側からの情報なので、取調べの現場を知るには好適な資料だと思いました。警察大学校で研修が行なわれていると聞いて希望を持ったのですが、一部幹部向けにとどまっているとは少々がっかりでしたね。ただ部下の指導にあたる上で、この研修が活かされるといいですね。
レポートの類は私的なノートではなく報告書なので、「PEACEモデル: ・・・」のようなメモ的な書き方をしてはいけません。本文にうまく入れてください。
「参考文献」というカテゴリーは基本的にありません。「引用文献」のみ。
どういうシステム変数について論じているのですか。まずシステム変数とはどういうものかを説明し、ある変数がシステム変数であることを特定し、それがどういう状況になっているかを書いていくとわかりやすいと思います。
教本があれば、ロールプレイはそれに即して行なわれるのではないかと思います。スーパーバイザーがいればもっといいです(いるはずなんですけどね)。警察に対する国民の期待と、国民の期待を警察がどう認知しているかが一番の問題のような気がします。国民の期待も、警察が認知する国民の期待も多分「犯人を見つけろ」であって、「冤罪を産むな」ではないと思います。それで取調べが糾問的(犯人発見に向かう)になります。これを情報採取へと切り替えること、情報採取が犯人の発見にもつながることをデータを示しながら研修をする(かつ国民に理解してもらう)必要があるのではないかと思います。しかし国民の意識は「犯人発見」に偏重しています。「被疑者」でしかないのに犯人扱いし、断片的な情報と推測によって「事件の真相」や「被疑者の人となり」を構築する国民たちが一番厄介だと思います。皆さんは事件報道をどうとらえているでしょうか。
8点差し上げます。