電気設備の故障で電車が遅れている、という謝罪の放送が、まま閑散としたホームに響く。
直後、あらぁー……と外山の隣で、朗らかな、でも少し残念そうな声がした。
「いやー……来ないな、と思ったら、案の定ですね」
「そっすねぇー、まあ設備の故障?とかなんで、しゃーないですけど」
なんとなしに話を振ると、若者はからからと笑う。
いやはや、と穏やかで人畜無害そうな若者の、更にその隣で。
赤い瞳の、厳めしい表情をした眼鏡の男が、じっと外山を見つめていた。
「あの、何か?」
「……ン、いや、別に」
素っ気ない返事をしながら、眼鏡の男は外山と、その足下の影をそれぞれ見やる。
「……憑いているな」
男の微かな独り言に、外山はギョッとする。
──……まずいな、釣鐘が見える人なのだろうか。
男の言う通り、外山には釣鐘という名の幽霊が憑いている。しかも何かと邪悪な力と殺人鬼という経歴を携えた、つまりは悪霊である。
この男が幽霊の見える人、更にそれらに対処できる能力を持つ人、そも一般的な倫理を携えている人……そのどれであっても、さてどう説明したものか……と外山は頭を悩ませる。
「あっ、スルトさん、電車。復旧したからぼちぼち来ますって」
連れであったらしい若者の声に《スルトさん》と呼ばれた男は、外山から視線を外す。
それから程なくして、ホームに車両がやってくると、どうもー!と会釈をする若者と《スルトさん》は乗り込んで行く。その、間際に。
「何かは知らんが、お前『達』……せいぜい穏やかに過ごせるといいな」
クク、と低い笑い声を残して《スルトさん》は外山達の前から去っていった。
『……ぶはぁ!うわあ〜、うわあぁ〜、なんですか、なんですかアレは、うえーっ!』
わかりやすくグロッキーなテンションの愚痴を、釣鐘は影から喚き散らす。
「俺だってわからんよ……まぁ、互いに何も無かったからいいが」
ハァ!?何もぉ!?と、釣鐘は尚も不満そうな声を溢す。
『いやぁ、あんな、あんなくっそデカい炎の……神さま?化け物?なんか、とにかくいかにもヤバいのに見られて、話してて、何も無いわけないじゃないですか、あぁヤだヤだ!』
「炎、神……えっ?なんだって?えっ?」
久しく麻痺していた、あんまりにも得体の知れないモノに遭遇してしまった感覚、経験。
わたわたと戸惑う外山達の事など知らず、次の電車がゆるやかにやってきた。